ひなまつり【KAC20251】

snowkk

ひなまつり

 小学校二年生の三月。

 私は家族で祖父母の家に行くことになった。私の祖父母の家は四国の高知県と愛媛県の県境に近くにあった。

 家に着くとすぐに近くの神社に遊びに行った。

 そこは近くに住んでいるアツシ君と一緒によく遊びに行く場所だった。

 その日もアツシ君と一緒に行こうと思い家に行くと、アツシ君のおばあさんらしい人が出て来てアツシは山へ行ったと教えてくれた。

 私は後を追いかけて神社の方に向かった。


 この神社にはおみくじがあった。金属でできた箱をガラガラと振ると箱の小さな穴から棒が出てくる。その棒に番号が書いてあり、神社の壁に番号ごとに『お告げ』の言葉が記されている。

 その言葉は当時の私には何を書いてあるのかよく分からなかった。

 その日もおみくじを引いて出てきたくじの番号を見るが、やはりよく分からない。わからないが、何か『気を付けろ』という文字が書かれていた。

 するとその時、神社から山の方へ行く道の方から子どもの声が聞こえた。楽しそうな子どもたちの声が聞こえる。

「今日はひなまつりよ」「こっち、こっち」

 アツシ君の声も聞こえた。

「こっち、こっち」

 私が声のする方へ行ってみると、そこに小さな集落があった。

 こんなところに家があったのかと驚いた。

 少し歩いていると、何か胸騒ぎのようなものを感じた。

 これだけ家があって人の気配がするのに誰もいない。

 私はなんだか怖くなってきた。

 その時また、私を呼ぶ声が聞こえた。

「こっちこっち」

 というアツシ君の声。

「おひなさまを見に来てよ」

 という数人の女の子の声。

 しかし、家々の間に人影はない。

 私は怖くなり神社の方に戻ろうと後退あとずさった。


 と、その時、後ろから祖父の声がした。

「おーい、どこに行っとる。探したぞ」

「おじいいちゃん」

「どこに行っとる」

「向こうに村が……アツシ君も……」

「何を言っとる。よく見い」

 私が先程の集落があった方に振り返るとそこにはお墓が並んでいた。

「アツシ君の家は一年前に火事でな……さあ、帰ろう」

 私は祖父に手を引かれ家に帰った。


 不思議な体験だったが、大人になった今、なぜかあまり恐怖体験という記憶ではなくなっていた。

 あの神社はどうなっているのだろう。ひなまつりになると思い出す。

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