3月3日と桃太郎

　日本では毎年、3月3日に「ひなまつり」が祝われる。

　女子の健やかな成長を願い、華やかな雛人形を飾り、ちらし寿司やひなあられなどが食卓を飾る。

　しかし桃の節句とも呼ばれるこの行事に、かつては男子の英雄である「桃太郎」が結びつけられていたことをご存じだろうか。

　ひなまつりの起源を辿っていくと、平安時代の「流し雛」という厄払いの風習に行きつく。

　これは桃の節句にあたる時期が季節の変わり目で厄が入りやすいため、紙や草で作った人形を川に流して災厄を遠ざけよう、という趣旨の儀式だった。つまり当初は、「女子のための」というよりも「子どもたちのための」風習だったのだ。

　これがやがて貴族の間で変化していき、現在のような華やかな雛人形を飾る形へと発展していった。

　一方、桃太郎といえば「強さと正義の象徴」として近代史以前から多くの子どもたちに親しまれてきた。

　その名前に「桃」が入っていることから桃の節句と関連付けられ、武家社会では桃太郎のような強い男児が育つことを願う日でもあったという。

　では、なぜ桃太郎はひなまつりから切り離されたのか？

　その背景には、奈良時代に中国から日本に伝わり、江戸時代に幕府が公式に定めた「五節句」の制度がある。

　これによって3月3日は女子の節句、5月5日は男子の節句と明確に分けられたことで、桃（上巳）の節句は雛人形とともに女子の行事として定着した。一方で桃太郎の物語は菖蒲（端午）の節句と結びつき、勇ましい鯉のぼりや兜飾りのイメージへと変化していったのだ。

　しかし、ひなまつりと桃太郎の繋がりが完全に消えたわけではない。

　桃は古来より邪気を祓う力があると信じられ、桃の節句には「子どもを健やかに育てる」という願いが込められている。それは男女を問わず共通するものだ。

　桃太郎が鬼を退治するのもただの武勇伝ではなく、悪しきものを払い、平和な暮らしを守るという意味を持つ。そう考えると、ひなまつりの起源にある厄払いの精神とも響き合うものがある。

　時代とともに行事の形は変わっても、その根底にある願いは変わらない。

　桃の節句の祝いの席で桃太郎の物語を思い出すのも、ひなまつりをより豊かに楽しむ一つの方法かもしれない。