Episode3 勉強の日々
教育一日目
内容は日常会話レベルの単語習得。
殆どは一度見れば覚える。そのため、昔造った人形達の教育をした際に作った対応表を見せて覚えさせる。実際に会話したりして、会話能力を向上させた。
「二人とも、お昼にしよ。」
「たいへん喜ばしく思います。」
「…ビオラ?どこで覚えたのそんな言葉。」
「? 嬉しい時に使う言葉って教えて貰った。ローズ姉に。」
「ローズ姉?!いつの間に…。」
「……ごめんちゃい。」
「ごめんちゃ──?」
「そんな言葉覚えなくて良いから!」
◆◆◆◆◆◆◆
教育二日目
本日の内容は数学…と言うより算数。この世界は数学を使うことが殆ど無いため、四則演算さえ出来れば大抵はどうにかなる。
なので、生活に支障が無い様に義務教育レベルは教える。義務教育レベルなのは、メイカが高校生活を遊び呆けて全く覚えていないからだ。
「リンゴ4個とミカン5個。合わせたら何個?」
「ん〜…1個?」
「……何故に?」
「全部絞って合わせたら1個だよ。」
「……合ってるけど違うよ!絞らないで!」
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教育三日目
内容は礼儀作法とメイドとしての仕事。この二日間でビオラの会話レベルはかなり上がった。今回依頼されたのは家事をしてくれるメイド人形。最低限の礼儀作法は身につけておいて損は無い。そしてメイドとしての仕事。
ベッドメイクや紅茶の淹れ方など、掃除洗濯料理を教えていく。
「おぉ…美味しい。」
「上手に淹れれた…良かった。」
「まさか飲み物でダークマターが完成するとは思わなかったよ…。」
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教育四日目
今日はこの世界の歴史。メイカは勉強嫌いなので、この世界の歴史は戦争があったことくらいしか覚えていない。直接教えることは出来ないので、昔どうにか覚えようと頭の良い友人に頼んで作って貰った教科書を見せる。ちなみにメイカは教科書を見て1時間で頭がショートしたので断念した。
「覚えるだけだよ?ほんとにご主人は…。」
「その覚えるのが人間には難しいんだよ!ほんとに君達が生まれたのは奇跡と言っていいんだよぉ…。」
「ご主人はどうやって人形に命を与えるなんて理論を完成させたのさ。」
「そう言う工夫なら思いつくんだよ。」
「メイカ母さん凄い…の?」
「母さん!?」
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教育五日目
本日の内容は道徳。余計な事を覚える前に善悪の区別を付けられる様にするのだ。昔日本で学んだ道徳の教科書を丸パクリして、とにかくやって良い事と悪いことの境界線を学ばせる。
「人間を襲ったらだめ。でも、相手から攻撃してくる場合はその限りじゃないよ。」
「攻撃?」
「肉体的にでも精神的にでも、辛いと思ったらすぐに誰かを頼りなさい。どんなに辛い事があっても、全ての人間が敵になることなんて絶対に無いんだから。」
「…分かった。」
道徳というより人として潰れない方法になってしまったが、気の持ちようは本当に大事なので問題は無いだろう。
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教育六日目
今日は特に教える事も無い。今までの復習と、これから引き渡す先でやる事を教えることに時間を使う。実はビオラには、最初から購入者の場所に行って貰うことは話していた。
人形は成長が早いため、精神面でもかなり成長している。おそらく、現在は15歳から16歳くらいまでは成長しているだろう。たまに精神面の成長が遅い子もいるが、そう言う時は別に人形を作って渡している。空間魔法の応用で、メイカと通話することが出来る物だ。
「なるほど…その人のお手伝いをすれば良いんだね。」
「まだ生まれたばかりだけど、大丈夫?寂しかったら別に人形渡すけど…。」
「う〜ん、大丈夫。色々教えて貰ったし、次は経験だよね。歴史の勉強で経験は大事ってわかったし。」
「…歴史を学ぶってそう言うことなの?」
「ご主人…。」
◆◆◆◆◆◆◆
夕方。
ついに引き渡しの時間が来た。鈴が鳴り、店の扉が開かれる。そこから、あの老紳士が現れた。男性はメイカを見て軽く会釈をし、視線をローズとビオラに移した。
「どうも、お久しぶりです。…こちらの方々は?」
「いらっしゃいませ。こっちの青髪の娘が私のサポートをして貰ってるローズです。それで、こちらがお客様のご注文の娘です。」
「初めまして。今日からお世話になります。メイド人形のビオラと言います。」
「ほぅ、これは…本当に人間の様ですね。どうも、私はジュール・ハルトマン。よろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。」
お互いに腰を折りながら、挨拶をする。貴族然とした服を着たハルトマンと、メイド服を着たビオラの二人はとても絵になってる。
その光景を見ながら、メイカは別の事を考えていた。
(ジュール・ハルトマン…確か魔法理論で表彰されてた人だったはず。共同研究者が前に人形を買いに来たし、その筋で来てみたって感じかな?まぁ前の人は凄く良い人だったし、一緒に研究してた人なら買い手としては信用出来るかな。)
その後、ビオラ引き渡しの手続きを済ませる。これは引き渡しの日付と、きちんと引き渡しが完了したことを証明する物である。
この間にハルトマンとビオラはかなり打ち解けた様で、契約と清算が終わった後仲良く話しながら店を後にした。
「これでお仕事かんりょーだね。ご主人、寂しくない?」
「確かにこの時間は何時も寂しいけど…でも、自分が造った子が気に入って貰えるのも、あの娘が嬉しそうな顔してるのも、なんだか本当に子供が出来たみたいで嬉しいんだ。」
「嬉しいって言ってる割には寂しそうな顔してるけどね〜。」
「そう言うもんでしょ。親って。」
成長を知っているから、その分寂しさも人一倍ある。だが、家から巣立つ成長したその背中が見えるからこそ、それ以上に嬉しさがあるのだ。
「私は人間じゃないから分からないなぁ…。私にもいつか理解出来る?」
「どうだろう。地球ではAIがAIを造るのは禁忌だったはずだけど。それを良しとするなら…ローズも造ってみる?自分の子。」
ローズはその言葉に逡巡し、少しの時間を置いて静かに首を振った。
「辞めとくよ。ご主人が造ってるところ見るのも好きだからさ、私。」
小さくなる我が子の背中を見つめながら、メイカは消える様な声で呟いた。
「そっか。」
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