Episode2 メイド人形
「さて、依頼の人形を作って行こうかな。」
「私は店番する。何かあったら呼んでね。」
ローズの言葉に頷き、工房に入る。作業する時の定位置に着いて人形の構想を練る。
(材質は木と土かな。木をメインに身体を造って、肉付けを土で固めよう。関節を水魔法で繋げて、食事からエネルギー補給出来る様に消化器官を作ろう。)
考えの通り木を削る。
今回使用しているのはマリンウッドという木だ。マリンウッドは海底に生えている木で、水を吸収して成長するため水属性との親和性が高い。人形を造る際に水魔法が多いと器用に成りやすいため、家事を代行するメイド人形を造る時はこの木を使う。
脚、腕、胴体、頭。それぞれの部位を切り出して並べる。心臓の代わりとなる核は、倒したスライムから取った魔石。
魔物は魔力が多量に集まって身体を生成し、一定以上の魔力を含んだ魔石は自我をも与える。ならば普通の魔石でも、魔力を与えてあげれば人形でも自我を持たせられる。
ただし、魔力に耐えられる身体が無ければ徐々に動きが鈍くなり自壊する。
その点、マリンウッドは水の魔力を吸収する。水魔法を大量に使うとその分強力になっていく特性は、水の魔石を使えば時間とともに強くなると言うこと。オート強化と言い換えても良い。
全体の枠組みを作ったところで、土をベタベタくっつけて行く。細かい調整をしながら肉付けだ。お客さんからの指定は無かったので、メイカの完全好みで造形する。
「お客さんはイケオジって感じだったし…私のイメージとしては黒髪清楚の女の子がメイドだと嬉しいかな!」
切り出した木材は全長170cm程。これに肉付けすると、かなりスタイルの良い人形になりそうである。腕や脚は細く、胴体はクビレを意識する。臀部と胸部はあまり盛りすぎないようにし、髪の毛を蜘蛛の魔物から取った糸で生やす。糸を何重にも結っているので、強度はかなりの物だ。
全身が出来たので関節を水魔法で繋ぎ、核を心臓にはめ込む。別の魔石から十分な魔力を供給し、ゴーレム魔法を発動する。
─カタカタ
たった今造った人形が、音を立てて動き出す。しばらくカタカタと音を鳴らした後、上半身を起き上がらせた。
起きた人形は、好奇心旺盛な目で周りを眺めた。
契約してから人形を引き渡すまでに一週間時間を貰っているが、実は人形自体は一日も有れば完成する。作業を開始したのが今朝のこと。現在時間は夕方になっている。
ではなぜ時間を貰っているのか?それは起きたばかりの人形が、人間の赤ん坊とほぼ同じだからである。
自我を持ったばかりの人形は、目に映る物全てが新鮮に見える。製作者を襲わないことは制作時点で刻まれているが、購入者に襲いかかったら意味が無い。そのため、引き渡しまでの残り時間で教育を施すのだ。
幸い人形は成長が早いため、一週間という時間で間に合わせることが出来る。
「おはよう。…夕方だからおはようはおかしいかな?」
「おは…よう?…ゆう…がた?」
「私は君のマスター。メイカって呼んで?」
「めいか?」
起きたばかりの人形は言葉が理解出来ていない様子だったが、メイカが製作者だと言うことは理解出来た様だ。口の動かし方が分からないのか呂律が回っていない。
まずは言葉を覚えさせようと、以前作った対応表を見せながら教える。一度教えれば出来るようになるため、ほんの少し立てば簡単な単語なら話せるようになった。
次は日常会話レベルの単語を覚えさせようとした時、工房の扉が開いてローズがやってきた。日は完全に堕ちており、夕食が出来たと知らせに来たのだろう。
「だれ?」
「この娘は私の造ったサポートさん。名前はローズね。貴方のお世話もしてくれるから、仲良くしてね。」
「なかよく。わかった。」
「また妹だ。宜しく〜。」
ローズが人形に近づき、頭をわしゃわしゃと撫でる。人形はよく分かっていない様だが、心なしか口元が緩んでいる様にも見える。
ちなみに、ローズがまたと言ったが、お任せ注文の場合メイカは完全好みで女の子を造ることが多いため、ローズからすると妹が沢山出来ているのだ。
話を戻して。
とりあえず夕食を食べるために、店の奥のリビングに向かう。スパイスの匂いでなんとなく分かっていたが、テーブルの上には魚介の入ったカレーが置かれていた。
「今日中には製作は間に合うと思ってたから、スプーンで食べられる物にしたよ。いくら成長が早いと言っても、箸は難しいからね。魚は骨が多いから、全部抜いてカレーに入れたよ。」
「ローズは気遣いが本当に凄いね。ありがとう。じゃあ食べようか。」
「その前に、この娘の名前を決めない?」
「ん〜…そうだね。先に決めちゃおうか。」
ローズの名前は、『ブルーローズ』から。
そのままだと名前として不自然なので、ブルーを宝石である『ラピスラズリ』に変えている。
分かりやすく想いを込めるため、今回も花と宝石から名前を付ける。人形の特徴は、綺麗な黒髪だろう。
(黒い花…何があったかな。パッと思いつくのはクロユリだけど、花言葉が呪いとかだっけ。この娘の名前には相応しく無いか。じゃあ………あ、ビオラとか?確か誠実、信頼とかの意味があったはず。偉い人に仕えるメイドならピッタリじゃない?単体で名前として成立してるから、下手に弄らない方が良いな。)
「…よし、貴方の名前はビオラ。これから、ビオラを名乗って。」
「びおら…私は、ビオラ。」
「さて、ビオラの名前も決まったことだし、ご飯にしようか。」
「お腹空いた〜。」
テーブルに着いて、スプーンを手に取る。魚介入りのカレーはピリッと辛く、生まれたばかりのビオラには少しキツかった様だ。
少し顔を顰めたが、美味しかったのか頬が少し上がった。
食べ終わった後はビオラをお風呂に入れた。教育は明日からすることにして、ベッドに三人で固まって眠った。
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