おひなさま

結音(Yuine)

憧れの七段飾り

 七段飾りが、欲しかった。


 親王飾りすらないキョウコの家では、七段飾りなんて飾っておく場所などないのだから。無理だと分かっていたから、口にしたことのない願い。



 七段飾りが、羨ましかった。


 友人の家に招かれたとき、奥の和室に案内された。ちょうど、ひなまつりの近い日であった。そこには、七段飾りが鎮座していた。

 一室まるまるお雛様のために用意できる。それが、七段飾りを得るための条件なのだと、キョウコは思った。



 七段飾りに、縁がなかった。


 もしも、女児が生まれたならば。

 キョウコは、ひなまつりが来るたびに自分が味わったような悲しい思いをさせまい、と。

 雛人形を用意したことだろう。

 だが、

 キョウコが得たのは、男児であった。



 七段飾りは、夢だった。


 キョウコにはそれが、娘として大切にされていることの象徴に思えた。

 一度だけ、母親に「お雛様が欲しい」と言ってみたら、「折り紙で作れば」と裏の白い広告の紙を渡された。

 キョウコは、作らなかった。

 折ろうと思えば、簡単に折れる。

 でも、そうじゃない。

 キョウコが欲しかったのは、自分で作ったお雛様ではない。


 今なら、わかる。

 キョウコが欲しかったのは、自分が大切にされていることの証明だった。






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