小さくて重い

西添イチゴ

「え? もしかしてキリスト教じゃ、人って輪廻りんねしないの?」

「しないよ。人間は一回生まれてきて死んだら、最後の審判を受ける。そしたら天国に行くか地獄に行くかして、おしまい」


ミヨシ君は、「おしまい」と言ったときに、胸の前でパチンと両手を合わせた。〈なーむー〉。というのは、ぼくの心の声。


「それって厳しくない?」

「なにが厳しいの?」

「いやだって、チャンスは一回ってことでしょ?」

「チャンスってなにが?」

「最後の審判で天国にいけるかどうか……」

「ああ」と言ったミヨシ君は、険しい顔になって、黙って考え始めた。


ぼくはミヨシ君の言葉を待つ。ぼくはミヨシ君のこういうところが好きだ。ぼくがいったいどういう動機でこういう話題を振っているのか、彼はぜんぜん詮索せずに、ただぼくの言うことをちゃんと受けとめて、よく考えて答えてくれる。


「ちょっと待ってね」と言って、ミヨシ君は顎に手をやって、目を瞑って、頭を右に傾けたり左に傾けたりしながら、一生懸命考えてくれている。


ぼくは慣れているので、ミヨシ君に返答を急かさない。ぼくも一緒になって考えてみる。


仏教には、輪廻という考え方がある。ぼくはぜんぜん信心深くはないけど、家に仏壇はあるし、っていうことでいいかなって思っている。まあ、神棚もあるんだけど。


のぼくは、キリスト教徒とは違って天国を目指しているわけじゃない。さとって輪廻を脱すること――解脱げだつするってことだね――が目標だけど、ぼくがこの人生でいつか悟れる日が来るだろうとは、とても思えない。


だからぼくの頼みの綱は、阿弥陀あみだ様だ。阿弥陀様の本願を信じることができさえすれば、ぼくは少なくとも極楽浄土には行けるはず。そのあとで悟れるかどうかは、未来のぼくの魂次第。南無阿弥陀仏なーむー






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