飾る
陰陽由実
飾る
その人形は、年に一度婚礼を上げる。
毎年毎年、同じ時期に。
いつもと同じ衣装で、現代とは違う衣装で。
何段もの段の1番上で、賑やかしそうに祝われるものもあり。
華やかしさはそのままに、2人だけで祝われるものもあり。
サイズをそれはそれは小さくし、それなりの形をかたどったものもあり。
人形の何から何まで、透明なケースに入れられて全てから守られているものもあり……
文化とやらはニーズとやらに左右されて、さまざまに変化するのだと実感するのである。
通りがかりの人形店、同じものばかり同じく、にぎやかに、それは長いこと置かれている。
確かに近々ひな祭りがある。ちょうど時期といえば時期なのだろう。
飾られて販売されているものが、ケースに入れられたタイプのものばかりであった。
久しくひな人形を見かけていなかったこともあり、それが目に留まった。
最近のものはケースに入れられているのか。まず第一に画期的だと感じた。
埃が積もらない。ケースも少々シンプルにデザインしてしまえば、人形と周りの雰囲気にも馴染むだろう。
幼少期にも私の家にはひな人形が飾られた。お殿様とお雛様と、少しの小物だけのごくシンプルなもの。
そこへあられやわたあめを買ってきて、添えるようにしばらく飾っていた。
人形の目がとても印象に残っている。
あの切れ長な日本人形特有の目。もしかしたら瞬きでもするのではないかと思うと少し恐ろしいような目。
しかし目が離せなくなる目でもある。どうしてもあのするりと細く、綺麗に引かれた線に惹かれるのだ。
恐ろしさの中に美しさを見たのかもしれない。
次いでケースの息苦しさを感じた。
守られると言うことは、何かを制限されることでもあるのだと常々感じている。
雛人形の掃除は確かに大変だ。柔らかな羽のような道具で、こまめに丁寧に柔らかく。
でもどこか、何か2人を縛っているような。
そう考えてしまうのは自分の勝手なのだろうか。
少なくとも幼少期、あのお雛様の持っている扇子の飾り紐を、たまにちょいちょいと両親のいない間に少しだけいじって遊ぶことはできないのである。
通りがかりに少しばかり見つめて、少しだけそう思考して、私はふらりとどこかへ行くことにした。
飾る 陰陽由実 @tukisizukusakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます