ドラマーでも好きのリズム取りは難しい



「でも、なんで……」

 家に帰ってお風呂に入り、パジャマに着替えてベッドに寝そべると、自然と言葉が口をついて出た。


 自分のバンドを組み、ライブする。

 昔からの夢の1つは、実現に向かいつつある。


 でもそのためには、メンバーが欠けずに練習を続けていくことが必須。

 だからメンバーの悩みにはちゃんと応えようと決めたのだ。


 わたしにはあかりみたいな音楽センスや技術、人を惹きつけるものはない。

 だからせめて、みんなが気持ちよく練習するためにサポートする。

 聞き役になる。



 ――と、決意していたんだけど。



 あかりは美弥ちゃんに夢中で。

 美弥ちゃんは桃ちゃんに重い愛を持っていて。

 桃ちゃんも、好きになった女の人がいて。


 どうすればいいの、これ。

 わたし、こんな秘密まで握りたく無かったわよ?


 あかりと美弥ちゃんに関しては、明らかに友達として大事にしたいとか、そういう一線を超えている。

 桃ちゃんはどうだろう。相手はわからないが、普通の友達ならあんなに恥ずかしそうに、わたしにだけ打ち明けるなんてことするだろうか。やっぱりもっと深い感情を持っているのだろう。



 三角関係。

 そんな言葉が頭をよぎる。


 っていやいや、それって普通は1人の男・女を複数で取り合うものじゃないの?

 恋愛ドラマから来ているわたしのつたない知識でも、それぐらいはわかるぞ。


 というかそれより何より、なんでわたしがみんな知ってる立場になってるのよ。

 わたしもしかして口が堅いって思われてる? あ、それは嬉しいけど。



 いっそのこと全部話して当事者間で解決してくださいってのは……いや、ダメな気がするな。

 メンバーの不仲につながっちゃったりしたら目も当てられない。



 じゃあわたし、3人の秘密を握ったままこれから接し続けないといけないってこと?

 荷が重過ぎない?



 ピロン


 鳴ったスマホの通知欄を覗くと、桃ちゃんからだった。

『今日はありがとう。これからもちょくちょく相談しちゃうと思うけど、良い?』

『良いよ。でも、やっぱり美弥ちゃんやあかりには言いたくないの?』

『うん。もうしばらく、私だけで頑張りたいの』


 桃ちゃんには弟・妹が2人ずついて、昔から学校に行きながら弟妹の世話をしながら両親の家事を手伝いながら、1人で頑張っているんだ、と美弥ちゃんが言っていたのを思い出す。

 きっと、できるだけ周りの手を借りたくないのだろう。


 わたしにだけ打ち明けたのも、考えた末の決断、だったのか……?



 ピロン


 おっと、今度は美弥ちゃんからだ。

『ねえ彩ちゃん、今日は桃と何の話してたの? ずいぶん盛り上がってたみたいだけど』

『桃ちゃんが演奏でわからないところがあるっていうから聴いてたんだよ』

『本当に? 桃、最近彩ちゃんと話してること多い』


 不満げな顔の顔文字がついてくる。なんて返せば良いんだろう、これ。



 そうだ、あかりからも何か来てたな。

『はい、今日の秘蔵の美弥ちゃん写真』

 スタジオ練習の合間に、ペットボトルを両手で持って飲む美弥ちゃんの写真。

 絶対隠し撮りじゃんこれ。



 ――はあ。


 無意識のうちに両手が頭に行っていた。

「どうするのこれ」


 わたしが対応を間違えたら、バンドの雰囲気はいっぺんに悪くなる。

 ライブができなくなる、その事態だけはなんとしても避けないといけない。



 あかりと一緒に演奏がしたくて。

 あかりがベースをやるならと、わたしはドラムを始めて。


 高校受験が終わったらすぐライブハウスのバイト募集に応募して。

 バンドメンバーも見つけて。


 もう少しで夢が実現できる、というのに。



「何とかしないと……」

 3人の思惑を知りながら、きちんとわたしはバンド全体のリズムを取れるのか?



「わたし、まだそこまでリズム取り上手くないよ、あかり……」




 ピロン


 疲れて閉じかけていたまぶたが、スマホの通知音に反応する。


『そうそう彩、さっき話してたけどさ、彩も協力してよ。美弥ちゃんと夏服買いに行くの』

 あかりからだ。

 あかりが美弥ちゃん美弥ちゃん言ってるのを見ると、もちろん悪く言うつもりは無いのだけれど、なんだか嫌になる。胃がキリキリ痛む、というのはこのことか。


 美弥ちゃんや桃ちゃんに黙ってなきゃいけないわたしの身にもなってほしい。


『だから、普通にメンバーのグルーブチャットで言えばいいじゃん』

『そしたら4人で行くことになっちゃうでしょ。あたしは、美弥ちゃんとデートしたいの』


 デ、デート?


 ……女の子同士でも、そういうことになるのか。



『でも無理だよ。美弥ちゃんだけ誘うのは不自然でしょ。練習の前に少し、とかならともかく』

 わたしだって今日桃ちゃんからスタジオ練習前にちょっと、と誘われたけどもそれぐらいなものだ。


 それに、そもそも美弥ちゃんだけ誘ったところで、絶対に美弥ちゃんは桃ちゃんを誘う。

 わたしがそう送ると、あかりからは渋々感のある返事。

『うーん、まあそうか、あの2人いつも仲良しだもんねえ』


 それもそうだし、美弥ちゃんが桃ちゃんにくっついて離れないのが容易に想像できる。

 あかりが変に引き剥がそうとしたら、美弥ちゃんからの反感を買うのは必至。



『だからもう4人で行くのは仕方ないよ』

『わかった。そしたら、良い感じのタイミングであたしと美弥ちゃんだけにしてよ』


 良い感じって……


 もう、あかりったら細かいことはみんなわたしに丸投げするんだから。



 まあでも、あかりが気分を害するのは、わたしだって見たくない。


『はいはい。その代わり、来週の宿題、頼まれても見せてあげないからね』

『あたしだってたまには宿題ぐらいちゃんとやるよ?』


 いや、毎回宿題ぐらいちゃんとやってくれ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る