【KAC20251】娘たちの守護者

有馬 礼

 季節の変わり目は、危ない。支配者が変わるその隙をついて彼岸から「忌まわしい者ども」がやってくる。

 彼らはするりと窓を抜け、冷たい手で私に触る。私の温かい身体を欲しているのだ。彼らはいつも生命に恋焦がれている。温かい身体を手に入れて、そこに宿る熱を残らず啜ろうとしているのだ。

 海の底に沈められたように身体が重い。苦しい。息ができない。

 私は僅かに動く眼球をなんとか動かして、棚の上を見た。そこにはおばあちゃんから受け継いだ雛人形がある。

「チッ、汚らしい手でその子に触んじゃないよ」

 お姫様が手にした扇を投げ捨て、十二単衣の裾を捌いて立ちあがった。お殿様が投げ捨てられた扇を拾う。

「貸しな」

 お姫様は隣の棚におすべらかしを靡かせて飛び移り、人型汎用兵器が持っている二又の槍を奪い取った。

「ここはてめーらみてーなモンが来ていい場所じゃねンだよッ!!」

 お姫様はオリンピック選手もかくやという素晴らしいフォームで助走からの投擲をキメた。

 ギャンッ

 槍は私の上の空間を貫き、反対側の壁に刺さった。

「ハァ、いくつになっても手間のかかる子だよ、アンタは」

「ありがとう……」

 お姫様は身長の何倍もある高さと距離をひらりと飛んで私の胸の上に降りた。

「アンタについてきて正解だったよ」

 お姫様は私の上を横切って、私のベッドに横付けにしたベビーベッドへ移る。

「しかし、この状況でぐうぐう寝てるこの子は大物になるね」

 お姫様は真っ白な小さい手で産院から退院してきたばかりの娘の頬を撫でる。

「……春分の日の方向に、特異点が生まれようとしてる」

「まさか」

「穢れた宇宙がこちらに接続しようとしてきている。この子は巫女だ。その日が来るまでアンタと私で守り通さなきゃならない」

「狙いは私じゃなく、娘……?」

「おそらくね」

「どうすればいいの」

「狼狽えんじゃないよ。私がいる。私を誰だと思ってんだい、雛の姫だよ。あらゆる娘の守護者さ」

「待ってくれ、僕もいる」

 とん、とお殿様は遠慮がちにベッドの端に降りた。

「お前のダンナに伝えとくれ」

「な、何を……?」

「もっと強そうな手下と武器を増やしてくれって」

「……積みプラモを組み立てるように言えばいいのかな。まあ、喜ぶと思うけど」

 でもそれについては、この前大喧嘩したところなのだ。

「とりあえず空を飛べる奴と馬鹿力の手下がほしい。あと、飛び道具」

 お姫様は腰に手を当てて、ありとあらゆるロボでひしめきあった寝室を見回した。

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