ひな祭り
蘇 陶華
第1話 祖母は、夢見る。すぎし日々の想いは、帰らず
自宅にあるのは、古い雛人形。
捨てたくても、捨てれない人形は、蔵の奥で、埃にまみれている。
誰のものか?
幼い頃から、私は、不思議だった。
あまりにも、古くて、持ち主がわからなかったから。
そう思うのは、
この家に、娘が生まれた事はなく、
何百年ぶりかに生まれたのが、私だったから。
だから、あの古い人形が誰の物かは、わからなかった。
可能性としては、おばあちゃんが、持ってきた物かも知れないけど。
それを知る方法はない。
だって、この家のおばあちゃんは、もう、何もわからなくなってしまったのだから。
認知症。
ぼけ。
いろんな言葉があるけど、どれも、いい言葉ではない。
おばあちゃんは、現世を離れて、自分の一番良い時間を生きている。
そう、思ってる。
この家から、離れて、施設で暮らすおばあちゃんは、蔵の中で、眠る雛人形の事なんて、覚えていない。
遠い昔に、自分の姿を置きながら、時折、思い出した言葉を呟くだけ。
日差しのない蔵の中で、眠る雛人形を母が、珍しく出してきた。
「どうしたの?」
「そうなんだけど」
母も、困惑していた。
「施設から連絡があってね」
おばあちゃんが、雛人形を見たいと言ったらしい。
珍しく記憶が鮮明で、言葉が驚くように出ていた。
「雛人形を見たいって言っても、どうやって、見るの?」
「写真に撮って、届けようと思って」
人形は、古ぼけていて、写真で撮っても、綺麗に撮れない。
「もう、家に置いても、仕方がないから、寄付したら?」
「そうかしら?」
出して来た人形は、色も変わっていて、時代を感じさせた。
「施設に連絡したら、取りに来るって」
年代物の雛人形は、おばあちゃんと一緒に施設に行く事になった。
「あの人形は、おばあちゃんの物だから、喜ぶね」
「おばあちゃんの?」
聞いて、母は、不思議そうな顔をした。
「誰から聞いたの?」
「この家には、女の子が生まれないから、持って来たのは、お婆ちゃんじゃないかって。母さん、言わなかった?」
「本当は、お婆ちゃんのじゃないのよ」
母は言った。
「お婆ちゃんは、5人姉妹の末っ子だったの。買って貰えなかったの」
話は、こうだ。
祖母は、5人姉妹の末として、生まれた。
姉が何人もいるから、何でも、お下がりだった。
新しい物が欲しくても、買って貰えない。
雛人形も然り。
祖母に買ってもらえる事はなく、姉達と同じ人形だった。
「だけどね・・」
母の顔は、険しかった。
「お姉さん達は、みんな学校に上がる前には、亡くなってしまったの。あの雛人形は、残ったお婆ちゃんの物になったのね」
お守りの人形が、結局、姉達の死を経て、自分の物になったのだ。
「飾る事もなくてね。捨てる訳にもいかず、お米に来る時に持って来たのね」
祖母は、記憶を全て無くしても、姉達の大事な雛人形は、覚えていたって事だ。
「だから、持って行ってあげましょうね」
母にしてみれば、扱いに困った人形を届けたつもりだったんだろう。
それから、しばらくしたひな祭りの日に、施設から、電話があった。
「お婆ちゃん、息をしていないって」
姉達が、大事にしていた雛人形が、届いたヒア祭りの日に、祖母は、旅立った。
あの日に、携帯で、撮った雛人形の顔を見て、私は、ゾッとした。
「あら・・・これは」
母は、絶句した。
人形の顔が、祖母、そっくりだったのだ。
ひな祭り 蘇 陶華 @sotouka
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