おひなさま
国城 花
おひなさま
「最近、ずいぶんとあたたかくなってきましたね」
隣から聞こえてきた若者の言葉に、老人は少し驚いた声を出す。
「そうなのかい?」
「この前、お家の人が言っていたんです。『そろそろ春だね』って」
「なるほど、それはいいことを聞いた」
「春はいいですよね」
隣から聞こえる声は、わくわくと嬉しそうにしている。
「花が咲き、緑が芽吹く季節です。景色も美しければ、食べ物もおいしい」
「酒も忘れてはならんよ」
「相変わらずお酒が好きですねぇ」
「酒は百薬の長よ」
「だからって年中赤ら顔なのもどうかと思いますけどねぇ」
若者の言葉に、老人はぐぐっと言葉に詰まる。
「仲が良いんですね」
くすくすと、少年の声が会話に加わる。
「お酒、いいなぁ。僕にはまだ先の話です」
「大人の楽しみよ」
老人は楽しそうに笑う。
その時、新たな声が加わる。
「あらやだ。もう皆さんいらっしゃるの?」
「私たち、何番目?」
「寝坊してしまったかしら」
若い女性の声が三人加わる。
「今はいつ頃?」
「そろそろ春だそうですよ」
「あぁ、もうすぐ春なのね。良かったわ、間に合って」
「万が一にでも遅れてしまったら、合わせる顔がないもの」
きゃあきゃあ、わいわい。
「私のお化粧、大丈夫かしら」
「私も、髪がほつれていないか気になるわ」
「私は最近、膝が気になるのよね」
「あら、痛むの?」
「そうなの」
「あなたはずっと座りっぱなしだものね。膝にくるのも当たり前よ」
「立ちっぱなしというのも辛そうだけれど」
女三人集まれば、男が喋る隙間などない。
姦しいという漢字が、この場をよく表している。
「賑やかねぇ」
おっとりとした女性の声に、三人の女性たちが嬉しそうに声を上げる。
「あら、お目覚めですか」
「もうすぐ春だそうですよ」
「そうなの。良き頃合いね。えぇと…あとは、何人かしら」
少しぽやぽやしている声は、まだ起きたばかりだからかもしれない。
「坊やたちがまだ起きていないそうですよ」
「まだ僕一人です」
「あらあら、みんなねぼすけさんねぇ」
そんなことを話していると、あちこちから寝ぼけた声が聞こえてくる。
「ふぁ~あ」
「…ねむい」
「遅いよ、みんな」
一人先に起きていた少年がぷんぷんと声を怒らせる。
「ごめんごめん。お前はいつも早起きだな」
「みんな賑やかだなぁ」
「僕たちで最後ですか?」
「いいえ。あの人がまだよ」
おっとりとした女性の声に、少年たちはふぅと息をつく。
「よかった、最後じゃなくて」
「一番最後ってなんだか気まずいもんね」
「そうか?それほどきまずくもないが」
若い男の声に、わぁっと声が上がる。
「お目覚めですか、あなた」
「あぁ、おはよう。私が最後のようだね」
「えぇ。皆、揃っております」
「それは良かった。また今年も、良き祭を迎えよう」
「おかあさーん、お雛さまどこ?」
「えぇと…どこにしまったかしら…」
「この奥かなぁ…あ、あったよ」
「良かった。綺麗なままだわ」
「お内裏様に、お雛様、三人官女に五人囃子。右大臣と左大臣。みんなそろってるね」
「さぁ、飾りつけをしましょう」
おひなさま 国城 花 @kunishiro
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