ひなまつり
ななみん。
第1話
「ちょいちょい。ひなまつりについてなんだけど」
下校時刻。
「うわ、絶対広がらんない第一声」
「まあそう言わず。トークウィズミー?」
『英語なんて滅べばいいのに』が口癖の雛子だが、それはもういい発音でささやいた。
「なんなんその得意げな顔。ま、少しだけなら聞いてあげなくもないけど」
「わーい。じゃあ張り切っていくよ」
「待って待って怖い。なにが始まるの? ちゃんと説明して!」
「さっき。さっき聞いてくれるって言ったよね!」
ジェットコースターのようにテンションが急加速していく。
こうなって雛子が止まった試しはない。
ああ、今日の夕飯なんだろうな。カレーがいいな。
アキは半ば諦めたような表情をするしかなかった。
「水面を見つめ続けること2時間……!」
「は?」
「まったくしょうがないなあ。水面を」
「聞き取れなかったわけじゃないから。なに言ってんのかわからんの『は?』だから!」
「やれやれ。最初にあたしがなんて言ったかを思い出してください」
じゃあテイクツー、などと言いつつ雛子は仕切りなおそうとしている。
それを見ながらアキは明日の朝食はハムサンドにしようと閃いた。
「水面を見つめ続けること2時間……!」
「それは暇な釣り」
「12月にしか出してもらえないのつらい」
「それはヒマなツリー」
「金魚すくい、射的、花火!」
「それは夏祭りー。っておーい! ここまでひな祭り一切関係なし! って聞けや!」
ぼうっとしている雛子の二の腕に軽く突っ込む。
先週よりぷにぷにしているのを感じたものの、アキはあえてそれを口にしなかった。
「きたきたきた」
「えーい、もうなんでも来いや」
「トリの降臨! はっ……⁉ あたし今なにを?」
この子が変なのは今に始まったことではない。
アキはなにも聞かなかった
「で? さっきからまわりくど過ぎるけど、どうせなにか言いたいことでもあるんでしょ?」
「まあ、あれですよ。今日はあたしの誕生日、つまり雛の祭りじゃん」
「雛子せんせー。バースデイは別に祭りではないと思いまーす」
「そこは空気読んで頷いてよ。泣くよ?」
「あ、さーせんした。どうぞどうぞ」
雛子は緊張するような表情とともに咳払いを一つ。
「これからおうちでパーティーをします。あ、違う違う。ひな祭りを開催します! こちらは誰もが執り行っている国民的行事でありまして」
「いやいや、お誕生日会って言えばいいじゃん? それより呼ぶの私一人だけとか、ガチのぼっち
「う、うるさいなあ」
「でもプレゼントなにもないけどいいの?」
「ある意味毎日もらってるからいいのっ」
雛子は頬を染め満面の笑みをこぼす。
アキはその表情に少しだけ心がときめいたものの。
「ほんと意味わからんわー。でも仕方ないから付き合ったるかー」
それを悟られないよう、いつもの調子で雛子の隣に並び立った。
ひなまつり ななみん。 @nanamin3
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