第6話 “火花”のフレイ(2)

 距離をとり、既に開始の合図を待つフレイ。彼女はどうやら両手剣を使うらしい。

 長いリーチと重い一撃に注意するのがセオリーだ。反面、動きは少し鈍いというのも。

 僕もまた木剣を手に取り対面する。剣を握るのはまるっきり1年振りだが体は動くだろうか。

 腐っても剣士だ、剣1つ満足に振れないんじゃ格好がつかない。


 それにしてもフレイは美人だ。さっきは座っていたから気づかなかったが、スタイルが良い。

 スラリと伸びた手足、ピンとした姿勢が美しいシルエットを作っている。そんなふうに見惚れ、呆けていると

 

「始め!」

 審判役の合図と同時に、フレイの姿が消える。

 

「えっ?」

 気づいたときにはもう僕の体は、激痛と共に吹き飛ばされていた。

 一瞬のことで理解が追いつかなかった。

 だがどうやら懐に入られ、大きく振り上げた剣にかち上げられたらしい。

 こんなインファイトをする両手剣、見たことがない。

 べしゃっ、と地面に落ち、体に痛みが走る。

 

「余所見してるなんて、ずいぶんと余裕ね?」

 呆れたような、小馬鹿にしたようなフレイの声。

 

「久しぶりに見たわ、フレイ様の「重打」速攻!」

「あれを受けきれた者は居ないと聞くぜ!」

 観衆からはキャーッと黄色い声が上がっている。

 

「イテテテ……」

 木剣を叩きつけられ、地面と激突、痛みのダブルパンチに耐えながら、ヨロヨロと立ち上がる。

 

「あら、立てるの。普通はもう少しへばってるんだけど」

「まぁ……ね。たしか3本勝負だろう?早くやろう」

「ふぅん、なかなかタフじゃない、気に入ったわ」

 互いに向き直り、剣を構え直す。

 痛いなぁ……体のそこかしこに、血が滲んでいる。

 

「2本目、始め!」

「でぇぇぇぇいッ!!!」

 フレイが再び速攻をかける。やはり驚異の速さだ。

 

「っ!」

 それでも来ると解っていれば、反応できない速度じゃない。動きも直線的だしね。

 右からの横薙ぎを剣で受け流し、バックステップで距離をとる。

 もちろんそれで終わるわけもなく、突っ込んでくるフレイのラッシュを捌き続ける。

 一撃いちげきが重く、それを流れるように打ち込んでくるフレイ。受ける剣と腕が軋むようだ。

 反応して受け流すのもやっとで、正直言って攻めあぐねている。本調子とは程遠い体で、長引く勝負はしたくない。

 しかしラッシュから抜けて、一撃加えるのは至難の技だ。

 そこで僕は切り札を切る事にした。上段からの切り下ろしをまたステップで避け、距離をとったあと、体勢を作る。

 腰を落とし、右手を引き、左腕を前に出す。

 姿勢こそ低いが、弓を引くようなそれは〈刺突〉の構えだ。


「鬼ごっこは終わり?突きの姿勢なんて取って。」

 追撃の手を止め、こちらに問うフレイ。

 

「さーてどうかな、試せばわかるよ」

「良いわ、乗ってあげる!」

 フレイも両手構えで突きの姿勢をとる。

 向こうは両手剣で、僕は片手剣。腕の分を足してもリーチの差は歴然だ。

 見合う両者。

 ひとすじの風が吹き止んだとき、2人は同時に動いた。ビュンと空気を切り、勢い良く突き出される互いの剣。

 その瞬間、僕の剣は手を離れ、刺突の勢いそのままに飛び出す。要はスッポ抜けるような形だ。

 明らかなリーチ差を覆し、フレイの胴に木剣が突き当たる。


 「うっ……!?」

 予想だにしなかった痛みから、フレイは思わず声を漏らす。

 一部始終を見ていた観客クラスメートもどよめいている。


 「お、おい、今のって!」

 「ま、まさかあのフレイ様が……!?」

 当然だろう、学年でも指折りの強者であるフレイが、どこの誰とも知れないヤツに一撃もらったのだ。


「ちょっとアナタ!剣を投げるなんて……あれ?」

 こちらの小細工に気づくと同時に、剣が僕の手にある事にも気づくフレイ。


「魔法禁止なんて言われてないだろ?」

 僕は柄頭つかがしらから伸びるを摘み、剣をぷらぷらと振り子のように揺らしてみせる。

 剣を投げ突いた後、括り付けておいた糸で手元に引き戻したのだ。

 そう、これが僕の"魔力特性"、ひいては魔法の使い途。

 魔法からみ出した我流剣技の1つ"伸びる刺突エクス・ラスト"簡易版。


 「逆転の糸口は我が魔剣にあり……なんちゃって」

 対人で使うのは初めてだが、我ながらなんて酷い剣だろう。

 自嘲と勝ち誇る意味を含めて、僕はニヤリと笑った。

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