第2話 ぼくだけのアイドルに魅せられて
あんな美少女なんて見たことないっ!
見初めたときは、三越應子の網タイツ姿じゃないけど、「愛の震天雷」を喰らってしまった。
どこのお嬢様か、お姫様だろう?
清楚で気品に溢れている。若くみずみずしいけど、大人びている。
名前も学年もクラスも判らない。きっと先輩に違いない。謎の先輩は、まさにまことの高嶺の花だ。僕の心のアイドルだ。
彼女を見かけるたび、気が付くと後を追いかけた。そよぐ長い髪が醸す香りは薔薇のよう。ゆらぐスカートの襞から桃の形が浮き出ている。夢心地で追尾していると、いつの間にか見失ってしまう。
見失っても、毎日登校のたび、休み時間のたび、下校のたび、見つけては追いかけ、見失ってしまう。まるで夜空の月のようだ。手が届きそうで、どんなに伸ばしても手が届かない。アイドルとは、そんなもんだよな?
あの人はとても美しい。街を歩けば誰もが振り返る筈だ。折に触れて、彼女のことをクラスメートたちに尋ねてみた?
「いやぁ知らないな」
「お前夢でも見てるんじゃない?」
「マジ、そんな子どこにいるんだよ?」
つまり誰に訊いてもわからかった。わからなった、知らなかった、というよりは、僕にしか見えてないみたいだ。
あぁ、やはり彼女は僕だけのアイドルなんだ!
彼女の尻を探し回ってるうちに春休み入ってしまった。もしも三年生だったら、もう卒業している。
いゃ、冷静に考えて見ろ。思い出せ。
卒業生になかには見かけなかったし、卒業式の後も見かけたぞ。
僕は帰宅部だ。昔から休みの日に登校したことはない。夏休み中の登校日だって、手当の出ない休日出勤みたいじゃん。馬鹿馬鹿しくて真面目に出たことがない。
でも春休み中だって学校に入れる。もう受験も終わったし、入構禁止もない。
きっと会えるに違いない。学校に行けば、あの人に……。
春眠暁を覚えず。それは去年までの話だ。もはや朝寝坊してる余裕はない。彼女を見かけるようになってから、寝坊することが無くなった。朝練する体育会の連中と一番乗りを争うよになった。
春休み一日目から、早朝登校だ。
「
「
レンズが煌めく。訝しむ目つきで眺めている。
可も不可もない、ごく普通の地味な女教師である。年は三十過ぎくらいの筈だけど、近くで見ると意外と若い。童顔でかわいいかも。胸は大きいけど、小柄だし、制服着たらバレないんじゃないの?
一部の生徒からは、
「
「だ、だいじょうぶです。いま行きます」
美人教師から甘い個人授業か?
とても、そんな雰囲気じゃない。
それに僕は、あの人にだけ夢中だし……、例え今を時めくトップアイドル、松戸聖花のお誘いだってキッパリ断れる。
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