ハードボイルドブラザーと大切な女
健野屋文乃(たけのやふみの)
古いアパートにて
生まれた妹が家に来るらしく、ハードボイルドな赤子の双子の兄弟は、少しだけソワソワしていた。
部屋には祖父母が来ていて、ハードボイルドな赤子の双子のお守をしており、古いアパートの一室には、綺麗なおひな様が飾れれていた。
「兄貴~ひな祭りって知ってます?」
ハードボイルドな弟は言った。
ハードボイルドな兄は、
「あれだろ。ひな人形を祭る、娘のお祭りだろ」
「本来のひな祭りの方だよ」
「本来?」
「本来のひな祭りって言うのは、人形を川に流すお祭りだっららしい」
ハードボイルドな弟は、そう言うと部屋に飾ってあるひな壇を見上げた。
そこには、妹が生まれるにあたって、買ってきたひな人形があった。
貧乏な家にしては、豪華なおひな様だった。
ハードボイルドな弟は、にやけると、
「川に流して見ようぜ?俺らの妹の為に本来のひな祭りを!」
と。
ハードボイルドブラザーが住む古いアパートの横には、小さな川が流れていた。
ハードボイルドな兄は、
「ブラザー、それは行けない。お袋を怒らせる様な事は、ハードボイルドとは言えないぜ」
「さすが俺の兄貴だぜ。めっちゃハードボイルド」
ハードボイルドブラザーは、静かに雛壇を見上げた。
「それにしても、兄貴と今生でも一緒になれるとは思わなかったぜ」
「運命だな」
「それも双子とは、俺、めっちゃしあわせだぜ」
「前世もハードボイルドな人生だったな、あっあの後、お前、幸せになったんか?」
「兄貴のお蔭っすよ『ここは俺に任せてお前らは逃げろ』っていう奴初めてみたよ」
「カッコ良かったか?」
「カッコ良かったすよ」
「カッコつけないとハードボイルドじゃないからな」
「惚れたっす」
「あいつも幸せにしたんか?」
「もちろんっすよ。俺にとっても大切な女ですもん」
「そっか、それは良かった」
外で車が止る音がした。その後、古い階段を登る音がした。
「兄貴、帰ってきたみたいだぜ!」
「ただいま!」
満面の笑顔の親父がドアを開けた。
この親父に関しては、極めて普通の親父だ。
その後ろには嬉しそうなお袋が、小さな赤ちゃんを抱いていた。
ハードボイルドブラザーは、その赤子を見上げた。
そして、赤子が歓喜の声を上げた。
「おぎゃー」
大人たちにはそう聞こえただけだが、ハードボイルドブラザーには、
「久しぶり会いたかったよ!」
と確かに聞こえた。
そう聞き覚えのある大切な女の声で♪
「また楽しきハードボイルドな人生が始まりそうだぜ!」
ハードボイルドブラザーは言った。
ただ、まだ、赤子たちは知らない。
前世の記憶はいずれ消えゆく事を・・・
完
ハードボイルドブラザーと大切な女 健野屋文乃(たけのやふみの) @ituki-siso
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