第3話

 気が付くと、ボクは高いところから周りの人々を見下ろしていた。人々は・・ボクを見上げている。


 あれ? ここはどこだろう?


 すると、すぐ横から香織ちゃんの声がした。


 「よく似合うわよ」


 ボクは横を見た。さっき見上げたお雛様の人形が座っていた。そして、そのお雛様の顔は・・・香織ちゃんだった。


 えっ、これって・・


 ボクは自分の身体を見た。ボクは・・・お内裏様になっていた。お内裏様の人形がボクの身体になっていたのだ。


 なんということだ! 香織ちゃんとボクは、お姫様とお内裏様の人形になって・・・仲良く、あのひな壇の一番上に座っているのだ。こんなことが本当に起こるなんて!


 ボクは手足を動かそうとした。でも、木でできた手足はピクリとも動かなかった。


 香織ちゃんのお雛様が言った。


 「私はね、こうして、ときどき、お内裏様をすり替えるの。あなたの前にお内裏様になってたのはね・・・」


 そう言うと、香織ちゃんのお雛様は、ひな壇の前に立っている男を眼で指し示した。ボクはその男を見下ろした。その男は、時代劇に出てくる農民のような格好をしていた。古ぼけた蓑のようなものを着て、わら草鞋を履いている。そして、珍しそうにキョロキョロと神社の中を見回していた。


 「江戸時代の初めに・・・この村の農民だった男をお内裏様として拾ったの。名前は確か・・甚兵衛といったかしら。でもね、甚兵衛に飽きたから・・・今度は甚兵衛を捨てて、お内裏様をあなたに据え変えたのよ」


 ボクは慌てて言った。


 「こんなの嫌だよぅ。ボクを返してよ」


 周りの人たちには、ボクたちの声が聞こえない様子だ。みんな素知らぬ顔で、ボクたちを見上げている。


 香織ちゃんのお雛様が笑った。


 「もう遅いわ。これから、あなたは人形として何百年も私と一緒に生きていくのよ。でも、何百年か経って・・・私があなたに飽きたら、そのときは、甚兵衛のように、その時代に捨ててあげるわ」


 そう言うと、香織ちゃんのお雛様は高らかに笑ったのだ。


 「あははははは・・・」


 その笑い声はいつまでも神社の中に響いていた・・・


         了

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ボクの怖ぁい~ひなまつり 永嶋良一 @azuki-takuan

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