特掃天使リンガウザラグ

加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】

ち。─血液凝固とクエン酸について─

 Wringリング outアウト the

 Wringリング outアウト the

 Wringリング outアウト the rugラグ……




 声。

 リズミカルなそれは、天使の歌声である。


 天使の歌声にしては、かなり暗いが……




 リンガウザ

 リンガウザ

 リンガウザラグ…… 

 (♪ぶりんばんばん⁉︎)


 

 声が暗いわけは……


 この天使が、〈特掃天使〉だから、である。

 名は、リンガウザラグ、というらしい。

 




Wringリング outアウト the rugラグ……今日も今日とて雑巾しぼり! というか、血、多くない?」

 そうボヤくリンガウザラグの手は、真っ赤に染まっている。




 氷の雲の上。

 別な表現をすると、〈天界〉の最下層、〈空〉。


 〈空〉には、巨大なタンクが乱立している。タンクの上では、リンガウザラグのような襤褸ぼろを纏った〈特掃天使〉たちが、そのほっそいふちに曲芸師みたくバランスよく立って、のボロぞうきんを絞っている。血は、ボタボタと、タンクの中へと絞り落とされる。〈特掃天使〉の襤褸にはところどころ、赤褐色の斑点しみ。それは、血が跳ねてできたのであり、血が跳ねるのは、血がタンクの中で満杯になろうとしているからである。

 タンクの周囲には、血の出所、すなわち天使たちの死体が見えないのだが、その理由は、ドス黒くなった雲の上のあちこちに山積みになった〈殲滅雑巾せんめつぞうきん─ワイプアウト〉と印字されたパッケージの裏に、それらが隠れてしまっているから、というだけのことである。




「そろそろ〈雨〉降らさなきゃだな……」

 リンガウザラグは、タンクの上から、汚れた雲の上へと、ふわり堕ちる。




 雨、というのは無論、雲から地へ降るあのシャワーのような存在である。〈空〉は、〈天界〉で死んだ天使たちの血液浄化施設としての機能を備えており、〈空〉で、血は透明な水、つまり雨に変換される。そして雨は、〈空〉よりさらに下層の世界、〈地上界〉へと散布されることになっている。つまり〈特掃天使〉はいつも、血を雨にすることに明け暮れているのである。




「はい、遠心分離機、ポチッとな」

 リンガウザラグは、慣れた手つきで、遠心分離機のスイッチを、ノールックで押す。




 リンガウザラグの押したスイッチのすぐ下には、どっしりとした、茶色いクラフト紙製の大袋が置かれている。袋の前面には大きく、「Na3C6H5O7」とある。それは、リンガウザラグが、今朝、〈地上界〉で調達してきたものだ。封は開いていない。




「というかさぁ、〈特上天使〉はいっつも、何かあった時のために遠心分離が完了するまで装置からは離れるなって言うけど、今までこと、ないんだよなー」

 リンガウザラグは、またボヤく。


 


 ちなみに「Na3C6H5O7」というのは、クエン酸ナトリウム。クエン酸ナトリウムは、抗凝固剤としてはたらく。これがタンクに貯まった血液に投入されると、血液中のカルシウムイオンと反応してクエン酸カルシウムになる。また血液が凝固するには、プロトロンビンという血液凝固因子がトロンビンに変わる必要があるのだが、その時、カルシウムの加勢が必要である。つまり、血液にクエン酸ナトリウムを加えると、プロトロンビンはカルシウムイオンを横取りされてしまい、トロンビンに変わることができなくなるので、血液凝固しない。血液が凝固しないということは、当然、血液は分離しやすい。そこで3.2%の濃度のクエン酸ナトリウム液と血液とを、1:9の割合で混ぜたものを遠心分離機にかけてやるのだが、そうすると血液は、血漿けっしょうすなわちちょっと黄ばんだ雨と、赤血球や白血球など血球成分とに分かれる。血球成分は、ほとんどの天使たちにとってはただの廃棄物ごみとなるが、〈特掃天使〉はそれを、天界の大発明、〈天地返し装置〉を使って造血幹細胞に戻して、〈地上界〉の癌患者の造血幹細胞移植用に、〈地上界〉のヤブ医者に売りつけることで、小遣い稼ぎの種にしている、というわけである。




「よーし。帰ったら〈天地返し装置〉で、造血幹細胞作らないと……小金稼ぎしなきゃ、やってられないからな」

 やはりボヤくリンガウザラグの両目は、お金マーク、になっている。




 疲れ果てたリンガウザラグは、高く舞い上がり〈空〉を脱出、退勤した。

 が、ただ退勤したのではない。

 

 ───抗凝固剤クエン酸を入れ忘れて。





 🤴🤴🤴

 コエラレナイカベ

 👼👼👼

 ☁️☁️☁️

 🩸🩸🩸

 




 リンガウザラグの退勤直後。

 

 📞<ぱん ぱぱぱぱ ぱん ぱぱぱぱ ぱん ぱぱぱぱ ぱん♪

 〈特上天使〉のラッセラーフィムの電話機内蔵履物サンダルフォンが鳴った。


「ん?」

 〈特上天使〉ラッセラーフィムは、履物サンダル本底ソールから、受話器を引っぺがして、それを片耳にてがった。


「はい、モーセモーセ……あ、気象庁長官? ふん。ふん。ふんふん…………なぁにぃ!? 〈地上界〉で赤い雨が降ってるだってぇ! くっそー〈特掃天使〉どもめ……やらかしよったか!!! わかった、今すぐ対処する!」

 〈特上天使〉ラッセラーフィムは、激おこである。




 原因は、というよりも犯人は、すぐに特定された。




 🏠

 👼⁉️

 ||

 ω

 ☁️☁️☁️   ☁️☁️☁️

 🩸🩸🩸   🩸🩸🩸

 リンガウザラグは、〈空〉よりもちょっぴり上の方にある自宅を目指して、爆速帰宅中。



「あれっ、あの雲の下、赤雨あけぇさめが降ってる。前に〈地上界〉でクエン酸ナトリウムが販売禁止になって手に入らなくなった時も、赤雨あけぇさめが降ったんだよなー…………って、そういえば!」

 リンガウザラグは、その顔を、血に染まった雨雲よりも暗く曇らせると同時に、うっかり、血液タンク内にクエン酸ナトリウムを投入するのを失念していたのを、思い出した。


 のと、ほぼ同時!


 📞<ららんらん らんどせるーはー ぺぺんぺ テン師 おやーめ♪

 リンガウザラグの電話機内蔵履物サンダルフォン(※初代SE)が鳴った!



「はい……もーせ、もーせ……って、え! ラッセラーフィムさま!?!?」

「おのれリンガウザラグ! よくもやらかしてくれたな! はよクエン酸入れてこいっ!」



 〈特掃天使〉は、今日も残業だったとさ、おしまい。






 というか……




 C6H8O7……




 そんなことより!




 みなさん、クエン酸を摂取しましょう!

 みなさん、クエン酸を摂取しましょう!

 みなさん、クエン酸を摂取しましょう!


 大事なことなので、三回言いました。


 医者いらずのクエン酸。

 眉唾物とお考えのお方、いらっしゃいましたら、ぜひ高校生物【解糖系 クエン酸回路】の受講をお勧めします。

 仕組みを理解せずして批判はいけません、ミトコンドリアは偉大です。

 クエン酸回路、エネルギーの通貨ATP生成量、脅威の〈〈〈36〉〉〉!

 多くの医者は、クエン酸が流行ると来院者=金ヅルが減って困ります。

 多くの製薬会社は、クエン酸が流行ると薬が売れなくなって困ります。

 大枚はたいて、はいよろこんで、定期顧客化! 薬漬け! は嫌ですね。

 一方でクエン酸は、爆裂効果に反して激安です。

 ご購入の際は、しっかりと食品添加グレードを。



 以上、クエン酸の回し者、加賀倉創作でした。



   〈散〉

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