んなわけないひな祭り
ケーエス
ひなレース開幕
「さあやってまいりました! 毎年恒例ひなレースのお時間です。実況は私佐藤がお送りします! 解説は5年連続「お雛様」に輝きました齋藤さんです!」
「はい齋藤です。よろしくお願いします」
「えーさっそくなんですが、今年のレースはですね、非常に過酷だと聞いておりますが」
「はいそうなんです、天気予報によるとひなあられが降るそうです」
「ひなあられですか! 痛そうですね」
「痛いと思います。私も4回目優勝の時にですね、頭に思いっきりあたりましてね、レース終了後に救急車に運ばれまして三針縫いましたー!」
齋藤は笑顔である。
「あ……そうですか」
「さらにですね、ちらし寿司が吹くという予報も出ております。これがどうレースに影響するか、誰が縫うのか見物ですよ」
「はあ、ええ、はい、いよいよレーススタートです!」
「ここでルールを今一度確認しておきましょう。挑戦者たちはひな壇の一番下から最上段のですね、お内裏様の隣を目指して登っていきます。各段には挑戦者を阻む刺客が行く手を阻みます。障害を乗り越え、いち早くお内裏様の横につくことができた女の子がお雛様です!」
女の子たちがずらりとひな壇の前に並び始めた。最上段を見つめ、闘志を燃やす彼女は進宮はるか(7さい)だ。
「はるかちゃーん!」
「あ、りんちゃん」
彼女は亜里田りん(7さい)。前回の覇者だ。
「いよいよ本番だね」
「うん……負けないから」
「うん」
「位置について、よーいドン!」
挑戦者たちは走り出した。前方から馬が走ってくる。
「うわあああ!」
ビビった女子たち、腰を抜かし馬と衝突! 10名脱落!
段を上がった先に庭掃除の人が、大量の葉っぱを流す! 20名脱落!
段を上がった先にSPたちが弾丸発射、こちらも打ち返す! 幾たびもの銃撃戦を繰り広げる! 50名脱落!
段を上がった先に五人囃子の演奏家たちが! 不協和音! 耳を抑える挑戦者たち! おっと耳あてをしていた女子たちが前に出る!17名脱落!
段を上がった先に最後に待ち受けるのは三人官女! こいつらを倒さねば先に進めない! 残った三人、ここは一時共闘姿勢を見せる! 一対一の殴り合い! 蹴り合いだ!
「がはあっ!」
はるかがふっと横を見ると、りんが血を吹きだして倒れているのだった。相手の官女も息絶えているようだった。
「りんちゃん!」
駆け寄ろうとしていたところ、腹に衝撃が加わった。
「何よそ見してんのよ」
不覚だった。よそ見をするなとあれだけしごかれていたというのに。息も耐えだえに官女を見上げる。それと共に官女の右フックが加わる。
「今年の!」
痛い。
「ひな候補は!」
痛い。
「こんなものか!」
痛い。頭が破れてしまいそうだ。このまま死ぬというのか。
そのとき――。
官女が倒れた。
「めいちゃん……?」
そこにいたのはもう一人のひな候補、朝野めいのお母さん(47さい)だった。彼女は官女を背中から蹴り倒したのだった。
「なんでおばさんがここに?」
「今日めい熱出してるからさ、代わりに来たのよ」
腕のすり傷をさすりながらめいのお母さんは言う。
「それってダメじゃないの?」
「いや、母親が出ちゃだめ、そんなルールはないわ」
「何をくっちゃべってるかー!」
お母さんの首に手が巻き付く。残る官女が背後から襲ってきたのだ。
「娘だろうが母だろうが、弱いやつは」
官女が崩れ落ちた。腕から血が流れ出ている。
「な、なに……それ」
ひなの母の腕にはびっしりとトゲが生えているのだ。
「ああ、これ?」
母の腕がびゅーっと伸び、はるかに巻き付く。
「殺すための道具」
トゲが体を侵食していく。目の前の景色が白くなっていくのがわかる。
「はあ、はあ。将来勇猛な子どもが死んでいくのが好きなんだよね。りんちゃんはピアノミサイルの全国3位、はるかちゃんはそろばんマシンガンの全国5位……。りんちゃんはもうやられちゃったみたいだけど」
「おひな様になるんだ……」
「まだそんなこと言ってんの? 女の子の成長を祝うなんて昔の話。今や女の子なんて飽きるほど生産できる時代。世に溢れすぎた女子たちをここに集めて合法的に殺してんの。強い女しかもういらないから。私は量産型女子になんて負けないから。あんたも殺す」
締め付けが強くなる。息ができない。感覚だけそこに存在している。もう、死ぬ――
そのとき、辺りを地響きが襲った。一瞬視界が戻る。ひなあられだ。半径1mほどのひなあられが降ってくる。
「うっ!」
うめき声と共に締め付けがほどかれた。地面に叩きつけられる。目線の先にめいのお母さんが倒れている。頭から血を流している。周辺にはひなあられの欠片が散らばっていた。ひなあられが命中したのだ。
「めいちゃんの……お母さん?」
言う間もなく、はるかにもひなあられが落ちた。すでに血のほとんどを出し尽くしたはるかは即死であった。
勢いを増すひなあられはひな壇に穴を開け始めた。そして実況席も観客席も粉々に破壊された。全て犠牲となった少女たちの怨念によるものだった。ひなあられは日本中に降り注ぎ、街を社会を文化を破壊し、日本は壊滅した。
んなわけないひな祭り ケーエス @ks_bazz
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