エーベルはアストリアの手を取り、宴席の出席者一同に向かって宣言した。

「皆の者、聞いてくれ！　この者は、長らく行方不明となっていた我が妹、アストリア王女だ！」

　出席者たちは驚きと歓喜の声を上げ、再会を祝福した。国王夫妻もステージに上がってきて、涙を流しながらアストリアを抱擁した。

　しかし、全ての記憶を取り戻したアストリアの表情には、再会の感動よりも強い、ある決意が宿っていた。アストリアは彼女は深呼吸してから、静かに語り始めた。

「皆様、私がいなくなった夜のことをお話しさせてください。あの夜、私はエーベル殿下の誕生日を祝うため、贈り物を届けようと西宮殿を抜け出しました。しかし、東宮殿で、公爵令嬢マリラ様と、その取り巻きたちに見つかりました」　

　観衆の中からざわめきが起こり、マリラは顔をひきつらせた。アストリアはさらに続ける。

「殿下の婚約者であられたマリラ様は、私を殿下の浮気相手だと誤解しました。私は自分が王女アストリアであることを伝えようとしましたが、彼女たちは聞く耳を持たず、私を捕らえたのです」

　エーベルは眉をひそめながら、アストリアを促した。

「続けてくれ、アストリア」

アストリアはうなづき、説明を再開した。

「彼女たちは私を中庭に連れ出し、拷問を始めました。私が作ったエーベル殿下の紋章入りペンダントを見て、彼女たちはそれを殿下から私への贈り物だと決めつけ、さらに怒りを募らせました。マリラ様はその宝飾品を奪い取り、床に叩きつけて壊しました」

　大広間は静まり返り、誰もがアストリアの言葉に耳を傾けていた。

「さらに、私が殿下のために書いた曲の楽譜も破り捨てました。先ほどのアンコールで弾いた、あの曲です。その後、彼女たちは私のガウンを剥ぎ取り、奴隷商人に引き渡しました。私は恐怖と痛みで気を失い、目が覚めたときには見知らぬ場所で、記憶を失っていました」

　エーベルは怒りに震えながら、マリラに鋭い視線を向けた。

「マリラ。今述べられたことに、心当たりはあるか？」

　マリラは蒼ざめた顔で立ち上がり、震える声で答えた。

「な、何かの間違いですわ。私はそのようなことは……」

　アストリアはマリラを遠くに見つめながら、よく通る声で高らかに告げた。

「私が持っていたペンダントと楽譜の破片は、中庭を探せば見つかるはずです。もし、それらが既に見つかっているのならば、私の話と一致することが分かるでしょう。これが動かぬ証拠でなくて、何でしょうか！」

　出席者の中に、動揺と怒りの声が広がった。アストリアは深いため息をつきながら、国王夫妻とエーベルに向き直った。

「お父様お母様、そしてお兄様。たくさんの方々の助けを得て、私は戻って参りました。これからは王家の一員として、皆様をお助け申し上げることを誓います」

　エーベルは妹を抱きしめ、静かに答えた。

「アストリア、お前が無事に戻ってきてくれて、本当にうれしい。これからは共に、この国を支えていこう」

　大広間に、再び拍手が巻き起こった。アストリアの帰還と新たな決意が温かい祝福を受ける中、エーベルは、冷たい声で衛兵隊に命じた。

「公爵令嬢マリラを拘束して、詳しく取り調べろ！」

　衛兵隊は一斉に剣を抜いて、マリラを取り囲んだ。