カウントダウン・チャット
わんし
カウントダウン・チャット
[お前はあと72時間で死ぬ]
最初は、友人のいたずらか何かだろうと思った。大学の友達はよく冗談でこんなメッセージを送ってきたが、あまりにも現実味がなさすぎる。亮太はため息をつきながらも、そのメッセージを無視した。
後で気が向いた時にでも、冗談を言ってきた友人に一言伝えようと思いながら、スマホをポケットにしまった。
しかし、その日はそれ以降も何度も同じ番号からメッセージが届いた。最初は無視していたが、次のメッセージが届いたときには、少しだけ心の中で不安を感じ始めた。
[あと48時間]
何も考えずに返事をすることもなく、そのメッセージも放置したが、だんだんと気になりだした。なんとなく、冗談だと分かっていても、無視し続けることができなかった。
そして、3日目の朝、もう一度その番号からメッセージが届いた。
[あと24時間]
これでさすがにおかしいと思った。
冗談にしては、少し現実味がありすぎる。何かが違うと感じた亮太は、意を決してそのメッセージに返信することにした。
「誰だ、お前?」
しかし、返信を送っても、すぐに返事は来なかった。それどころか、その後もメッセージはただ届き続けるだけで、返事はないままだった。
亮太は次第に、そのメッセージに異常を感じるようになった。最初は軽く考えていたが、メッセージの内容がどんどん具体的になってきていることに不安を覚えた。
[あと48時間]
[あと24時間]
のカウントダウンが迫ってくるにつれて、冗談では済まされないような気がしてきた。
とはいえ、誰かのいたずらにしては、あまりにもタイミングが悪すぎるし、何よりもその内容が妙にリアルに感じられる。
亮太は、何か他の解決策があるのかもしれないと考え、思い切って警察に相談することにした。
その日の午後、亮太は警察署に足を運び、受け付けの担当者に事情を説明した。番号の特定や調査をお願いするつもりだったが、担当者は淡々とした口調で答えた。
「その番号は存在しません。」
亮太は驚いた。
「存在しない? でも、確かにその番号からメッセージが送られてきたんです!」
警察官は冷静に続けた。
「データを調べてみても、その番号は登録されていません。恐らく、あなたが見間違えたか、何らかのエラーです。」
亮太は自分のスマホを取り出し、メッセージの履歴を見せようとした。しかし、画面に表示されるその番号は確かに存在しており、警察官が言うようなエラーには見えなかった。
「本当にそれだけですか?」と亮太は食い下がった。
警察官は一度頷き、
「もしまた同じような事があれば、再度ご連絡ください」
と言い、手続きを終わらせようとした。
その場での対応には限界を感じた亮太は、結局そのまま警察を後にした。
だが、警察署を出た瞬間、亮太の不安はますます膨らんだ。
もし本当に「誰か」からのメッセージだとしたら、一体誰が、何の目的で自分にこんなことをしているのか。疑念と不安が胸に広がる一方で、次第にカウントダウンの時が迫ってきていることが、現実味を帯びて感じられるようになっていた。
その夜、再びメッセージが届いた。
[残り12時間]
亮太は震える手でスマホを握りしめた。その時、スマホの画面に表示されたのは、単なるテキストではなかった。履歴を遡ってみると、そこには驚くべき内容が記録されていた。
「自分が、その番号にメッセージを送った」
――亮太のスマホには、まさに自分がその番号にメッセージを送信した痕跡が残っていた。
「こんなはずはない…」
亮太は恐怖を感じた。自分はその番号にメッセージを送った覚えは一切なかった。だが、履歴には確かに自分の番号が残されている。そのメッセージは、何もおかしなところがない、まさに自分が送ったものだった。
恐るべき疑念が胸を締めつける。もし、このメッセージが本当に自分から送られたものだとしたら、誰か、あるいは何かが、自分を操っているのだろうか?それとも、これは単なる偶然なのだろうか?
亮太は次第に冷静さを失っていった。時間が無情に迫る中で、恐怖の影が徐々に深く暗く染み込んでいくのを感じていた。
亮太は自分の番号がどこかに紛れ込んでしまったのか、それとも誰かに巧妙に仕組まれたのか、その真相を突き止めなければならないと感じた。
これ以上、無視しているわけにはいかない。警察に頼んでも解決しないなら、他に頼るべき人がいる。
その夜、亮太は大学の友人、
「そんな怖い話、冗談じゃないよな?」
勇人は冗談っぽく言ったが、亮太の緊迫した様子を見て、すぐに真剣な顔に変わった。
「分かった、ちょっと調べてみるよ。俺のパソコンにデータを送ってくれ。」
亮太はスマホをPCに接続し、友人に必要なデータを送った。しばらくすると、勇人からメッセージが届いた。
「おい、これ、マジでおかしいぞ。お前の番号が、死亡者リストに載ってる。」
亮太は一瞬、何を言われているのか理解できなかった。
「死亡者リストって、どういうことだ?」
勇人は続きを書いた。
「簡単に言うと、お前の番号が、すでに死んだ人のリストに登録されてるんだ。しかも、リストは古いんじゃなくて、ほぼ最近のデータだ。つまり、お前は、死ぬべきタイミングにいるってことになる。」
亮太の心臓が強く打ち、顔色が蒼白になった。彼は言葉を失った。目の前に迫る死を予感させる言葉に、胸が締め付けられたような気がした。
「どういうことだ、俺が死ぬ?」
亮太は声を絞り出すように尋ねた。
「これがただの冗談だとは思えない。でも、他に何か方法があるかは分からない。」
その時、スマホが震えて、新たなメッセージが届いた。亮太は恐る恐るそれを開いた。
[残り1時間]
これまでのメッセージと同様、ただカウントダウンが続いていたが、今回のメッセージは、それだけでは終わらなかった。画面の下に、異様な文字列が表示されたのだ。
「もうすぐだよ」
その文字が画面を覆い尽くすように表示され、亮太はその瞬間、ぞっとするような冷気を感じた。突然、スマホの画面が真っ暗になり、何も見えなくなった。
亮太は手に取ったスマホを見つめながら、息を呑んだ。その時、耳元で何かの声が聞こえた。
「もうすぐだよ」
その声は、どこからか、しかし確かに確信を持てるほど近くから聞こえてきた。振り向くが、部屋には誰もいない。ただ、薄暗く静かな空間が広がっている。
目を開けた亮太は、呼吸を荒くしながらスマホを再び見るが、画面は何も映し出さなかった。まるで、全てがその瞬間に消えてしまったかのようだった。
一度、画面が真っ暗になった後、再び「もうすぐだよ」という言葉が、スマホのスクリーンに現れる。その声は確かに、今度は耳元ではなく、部屋全体に響き渡っていた。
突然、強い振動が部屋を襲い、亮太は恐怖から手が震えていた。何か、目の前の空間が歪んでいるように感じられ、壁の角から、冷たい風が吹き抜けていった。
「時間だ…」
その声がもう一度響き、亮太はその瞬間に理解した。彼が予想していた通り、カウントダウンが終わる時、何かが起こるのだ。
その刹那、スマホの画面が再び光を取り戻し、数字が
[00:00]
になった瞬間、画面がひときわ明るく光り、全てが静寂に包まれた。
亮太のスマホの画面が、まばゆい光を放ち、その瞬間、何もかもが静まり返った。彼は恐る恐るスマホを握りしめたまま、部屋の中を見回す。
しかし、何も変わった様子はなかった。外からは、相変わらずの静けさが伝わってくるだけだ。
その時、亮太のスマホが再び震えた。画面には新しい通知が表示されている。
「新着メッセージ」。
彼は恐怖に駆られながらも、手を伸ばしてそのメッセージを開いた。
[残り0時間]
その文字がスクリーンに浮かび上がった。だが、それが表示された瞬間、スマホがピタリと静止した。
画面に映るはずのメッセージが一瞬で消え、次に表示されたのは亮太自身のSNSアカウントが
[削除されました]
という通知だった。
その後、亮太は全てを失った。SNSだけでなく、連絡先や写真、メモなど、あらゆるデータが消えた。スマホを再起動しようとしても、全ては空っぽで、どこを触っても何も反応しない。
その夜、亮太はそのまま眠れなかった。カウントダウンが終わったことを感じ取る間もなく、どこか遠くから何かが迫ってくるような感覚が続いていた。しかし、気づいた時には、翌日になっていた。
朝になり、亮太は寝ぼけ眼で目を覚まし、スマホを手に取った。無意識に確認するが、画面に表示されたのは、何もないただの黒い画面。まるで、最初から存在しなかったかのように、亮太のアカウント、情報、全てが消えていた。
「これは一体…」
亮太は言葉を失った。現実のものとは思えない出来事が、目の前で静かに広がっている。
そして、その日の午後、亮太が最も恐れていたことが起こった。誰かが新たにスマホを手にし、メッセージの通知音が鳴り響く。
その画面に映し出されたのは、またしても
「カウントダウン・チャット」
というタイトルと共に、残り時間を告げる数字だった。
その数字は、まさに新たな犠牲者を待ち受けるかのように、無情にも「72時間」を指していた。
カウントダウン・チャット わんし @wansi
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