第2話 初日
「それでは今日は入学式の後のため、午前中で授業は終了する。明日から、いきなり本格的な7時間の授業が始まる。各自しっかりと準備をして来るように」
担任の締めの言葉を最後に、帰りのホームルームが終了する。
クラスの生徒達は物音を立てながら、各自のペースで帰りの支度に着手する。
悠太もその1人であり、早めに帰りの支度を終わらせる。
「ねぇねぇ、成瀬君って入学式での新入生代表の挨拶をしてたよね? つまり学年首席で入学したってこと? 」
クラスの中でも整った顔立ちをしている女子の1人が支度を終えたばかりの悠太に尋ねる。黒髪ロングヘアと紺色の大きな瞳が特徴的である。
「そ、そうだね。確かに俺は首席入学だけど」
悠太は突然の質問に戸惑いつつも、求められる回答を提示する。中学時代は常にぼっちだったため、回答が辿々しい。コミュニケーション能力の低さが露呈する。
「やっぱり! そうなんだね!!すごいね! この学校を首席入学するなんて!! 」
黒髪の女子は興奮気味になり、悠太の学力を称賛する。
「そうかな? もしかして、たまたまかもしれないよ? 」
悠太は嬉しさを誤魔化すように、謙遜した言葉を発する。中学の時に全く異性から褒められた経験のない事実が起因する。
内心は嬉しくて仕方がなかった。自身のこれまでの努力が認められた気がした。自身の努力に対する初めての他者による称賛の言葉でもあった。
「そんなことないよ!! それに、この学校にまぐれで首席入学なんて出来ないと思うよ。そんなに甘い学校じゃないと思うし」
「そ、そうかな? 」
悠太は肯定を促すように首を傾げる。悠太の心が肯定や称賛を求めている。その証拠に胸の内で肯定や称賛の言葉を欲する欲望が激しく渦巻く。
「絶対にそうだよ! 気になるから他の人にも聞いてみる。お〜い」
黒髪の女子は悠太からの返事を待たずに、近くの入学初日に仲良くなったと予測できる何人かの女子生徒に呼び掛ける。
2人の女子生徒が悠太の席付近に集まる。その2人も負けず劣らずに顔が整っていた。つまり美少女である。
2人の特徴としては、1人はピンクのボブヘアと豊満な胸であり、もう1人は銀髪ロングヘアにハーフのような水色の瞳である。
「ここに座る成瀬君は首席での入学なんだけど、2人はこの学校にまぐれで首席入学できると思う? 」
黒髪の女子の1人が悠太の不安を取り除くような意図を持った質問を呼び出した2人の女子に投げる。
「それは有り得ないと思う」
「そんなこと聞いたことないです」
ピンク髪と銀髪の女子達は、きっぱりと真剣な表情で言い切る。彼女達の顔から、お世辞や嘘は読み取れない。
「だって成瀬君。これで統計的には40人中3人の生徒が、首席入学はまぐれではないという回答をしたよ。さっきの私の意見だけよりは信憑性が高まったと思うけど。それとも、もう少し人数を増やしてみる? 」
黒髪の女子が、行動の説明を根拠を述べて説明した後に悠太に尋ねる。
「あははっ。流石にもういいかな」
悠太は苦笑いを浮かべながら遠慮する。まさか統計学を使って来るとは思ってもいなかった。
「ならよかった」
黒髪の女子は満足そうな表情を浮かべる。
「それにしても成瀬君すごいよね! 」
「そうですね! 首席入学なんて誰でも出来るものでは有りません。しかも、この学校なら尚更です」
ピンク髪と銀髪の女子達も同じように首席入学した悠太を称賛する。
「そうだよね! 私もそう思う! 話変わるけど、成瀬君は今日ね放課後に時間あったりする? 」
黒髪の女子が話題を変更する。その言動には意図的な物が見える。
「特にないけど」
悠太は思い当たる予定など無かった。今日も自宅でゴロゴロと過ごした後に明日の授業のために予習をする予定だった。
「なら私達と一緒に今から遊びに行かない? 2人も何か用事あったりする? 」
黒髪の女子が他の2人女子に意見を求める。
ピンク髪のと銀髪の女子達は首を左右に振る。
「なら決まりだね! 」
黒髪の女子はニコッと笑みを浮かべる。
「ねぇねぇ3人共。こいつと遊んでも楽しいことないよ。中学時代にぼっちだったんだぜ? ダサくね? 」
大介が強引に割って入り、悪評を流すように悠太を貶す。おそらく入学早々に美少女3人に囲まれる元ボッチの悠太が気に食わなかったのだろう。
「あ、そうなんだ。あ、そろそろ教室から出ようか」
黒髪の女子は適当にスルーし、悠太を含む3人に提案する。
「う、うん」
事前に帰りの支度を終えていた悠太は席から立ち上がる。3人の女子も既に帰りの支度を済ませている。
「さ、行こうか」
黒髪の女子の声を合図に大介以外の4人は教室の出口へ向かう。
「ちょっ!? 待ってよ! 」
大介が1人だけ取り残される形となる。慌てて4人の制止を試みる。
しかし、4人は視線を向けずに教室を進み、退出する形となった。
⭐️⭐️⭐️
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