梅の暗躍


ちょうどその頃、

遥か天空の彼方。異次元に存在する魔界では

ちょっとした騒ぎになっていた


鬱蒼とした森の中

文化局に併設する魔界病院で、雷神界の皇太子ラァードル殿下が

秘密裏の改造手術を行っていた



ダンケルやイザマーレ、最高魔族の構成員たち、リリエルも見守る中

施術は順調に終わり、一時入院の為に身の回りの必需品を用意しようと

元老院に戻ったスプネリア


その時、枢密院でミルに出くわし、思わぬことを聞かされた


「スプネリア様!!大変です。お子様たちが…」


「え…?」

キョトンとするスプネリアに、歯痒そうに地団駄を踏むミル


「貴女様が大切になさっている、双子のお人形ですよ!!」


「…ああ、ひょっとして杏子と一檎ですか?それがどうかしましたか?」


「いつの間にか、姿が見えないんですよ」


「え?…でも…あの子たちが勝手に動くはずないですよね?人形ですから」


「もう!貴女様はご存じないのです。お人形にも魂は宿るのですよ?

自由闊達に遊びまわりますし、おしゃべりもするんです!!

いつもはおりこうさんで、おとなしくしてますが、どうやら…

居なくなってしまったみたいで…💦」


ミルの形相に面食らいながら、多少慌てて部屋の中を確認しに行く


「…!! 壱蛍いっけい…!」


部屋の中は、なぜか梅の香りが充満していて

壱蛍は居眠りしているようだった



「…ハッ…! あれ、スプネリア様??」


「壱蛍!!大丈夫?」


「!!!な…なんてこと…申し訳ありません…

御二方とも可愛らしく遊んでらっしゃって…

急に懐かしい香りがしたと思った途端…」


青褪めて、屋内を隈なく探し回るが見当たらない


(…ククク…)


ふいに、女性の笑い声が聞こえた気がした

ハッとして、立ちすくむスプネリア


「…た、たいへん…どうしよう…!!!お人形だけど…

殿下から貰った、大切な宝物なんです💦💦」


「…と、とりあえず…副大魔王様たちに、早急にお伝えしましょう!!

私にお任せください。スプネリア様は、お部屋の中でお待ちくださいね?」


ガクガクと震えながらも、なんとか頷くスプネリア


ミルはすぐに目玉蝙蝠を飛ばした…


一報を受け、すぐに現れるイザマーレたち


「スプネリア様!…大丈夫?」


リリエルが駆け寄るが、スプネリアは恐々と震えるだけだ


「…梅だって…?それは確かなのか?ミル」


「…ええ。私もあの声を聞きました。まさかとは思ったのですが…」

小声で確認するイザマーレに、ミルは恐縮しながら

リリエルを心配そうに見つめる


「…リリエルは、吾輩とずっと一緒に居た。

スプネリアの人形たちを連れ出した犯人は別にいる」


「…え?どういう事ですか?」


イザマーレの言葉に、キョトンと首を傾げるリリエル


「…梅の木に宿る…あいつが居たのは間違いないだろう。

しかし何故、今になって動き出したのか…」


リリエルの髪を撫でながら、思案するイザマーレ

その時、背後から声がした


「…理由もなく、このような真似はなさいません。

あの御方はむしろ、お子様方が進む先を見守っておられるのです」


「!…紫雲シウン様…」


驚き振り返ると、壱蛍から報せを受けて

急遽降臨した紫雲が、人型に姿を変えて立っていた


そして、手にした魔鏡に地上の様子を映し出す


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