第5話 公爵令嬢
スタインが学校から帰ろうとする時、アリアは声をかけようとしたが、周囲の談笑にかき消されて声は届かなかった。誰も悪くないが彼女の中では決定的だった。
(え...?この私を無視した...?)
アリアも帰路につくことにした。いつもなら他の生徒とも交流しようとするが、(本人にとっては)無視されたショックでそれどころではない。
「...帰るわよ。」
公爵家の護衛(アリアは公爵令嬢なので護衛が付いている)に、やや不機嫌そうに声をかけ、屋敷に向かった。しばらく歩けば屋敷に到着した。
「お姉様、もうお帰りなのですか?」
まず、2歳年下の妹フィオナ=エリスが出迎える。フィオナも国民学校に通っているが、この日は6年生がコース選択をするだけで、4年生のフィオナはお休みだ。
「ただいま、フィオナ。」
まだ気持ちが落ち着かないまま妹に返事をする。
「お姉様、少しご機嫌がよろしくないようですけれどいかがいたしましたか?」
「い、いえ、別にちょっと強い平民の同級生に無視されたから機嫌が悪いわけじゃないから!!」
姉を心配する妹に対し、早口でごまかしきれない答えを返す姉。
「ああ、スタイン様のことですね。」
「だ・か・ら、スタイン君のことなんて知らないから!」
「いつも私に、『平民で剣士志望なのに魔力が強くて魔導士以上に魔力制御が上手い男子がいて、名前はスタインっていうの。』『今日は挨拶できたわ。幸運ね。』と言ってくるのにですか?」
「あー、もう、仕方ないわね。そうよ。今日、コース選択があったでしょう?それで私、彼と同じ剣術コースになって放課後に少し話そうとして声をかけたのに無視をしたのよ。これは、『お前なんか眼中にない。興味ない。』って宣言したようなものだわ。」
アリアは向上心があるので、魔力が強く、魔法制御も上手(本人は満足していない)なスタインに関心がある。強いスタインと関わっていくうちに自分が強くなるための秘訣が分かるのではないかと考えて接近しようとする。しかし、スタインは学校で人を避けているためアリアといえど挨拶することさえ難しい。それでも、彼女の中では学校の中で最もスタインと会話(といってもほとんど挨拶)をしているという自負があるし、強くなるために努力も重ねていて、男子トップと女子トップで対等とも考えている。そんな考えを持っているからあのように感じたら腹を立てるのも頷ける。
「あ、ごめんなさい、お姉様。私、魔法の稽古をしてまいりますのでこれにて失礼いたします。」
フィオナは少し面倒になったのか、話を切り上げて魔法の稽古に向かった。
「あらそう。いってらっしゃい。私は部屋に戻るわね。」
そう言ってアリアは自室に戻った。
「何よ、もう。」
自室で一人、誰にも聞こえないような声で、突如突き付けられたスタインとの差を嘆いた。そして、
「こうなったら嫌でも無視できないような存在になるしかないわね。」
ひそかに明日からどう振る舞うかを決意した。
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