日本語酒場
店に入って座り、二人と軽い挨拶をしながら、目についた飲みかけの葡萄酒を飲んだら、勝手に飲むな、と殴られた。
「痛ってェなァ、グラスに歯ァぶつかったじゃねェか」おれが叫ぶと、とつぜん場は変にしらけて、一時停止のようになった。ヤマとナカは、うつむいて、小刻みに震えはじめた。だんだん震えは大きくなり、これ以上は耐えられぬという様子で、二人は、ちら、と目を合わせて、それが決め手になったみたいに、大声で笑いはじめた。ギャハハハ、ギャハハハ、お前、来て早々、ギャハハハ。てめェは、とんだダボじゃねェか、ギャハハハ。二人は手で机を叩き、足で床を踏みつけ、一度収まったかと思えばまた笑い出し、ようやく収まって、息を切らしながら酒に口をつければ吹き出し、ついには駄々をこねる子供のように床へ転がりだした。おれはそこでようやく、自分が異人語を使ってしまったことに気がついた。お前ら、黙れっ、静かにしろっ。叫ぶと、先に落ち着いたナカが、はァ、はァ、人に笑われることじゃァ、お前の右に出るもんは国中探したっていねェだろうな、と言い捨てた。おれは腹が立って、おれが使ったのは英語だ、特段敵視する言葉じゃねェだろう、あァ? と怒鳴った。関係ないねっ、なんだよそのズレた反論は。ヤマが続けて言い放つ。そんなんだから頭にも、この脳みそは0点ですよおって印が出てきちまうんだろ? と、おれの坊主頭にある脱毛斑を指差した。ヤマ、てめェ、とうとう言いやがったなっ、なにが0点の印だっ、これはなんとかっつうれっきとした病気なんだよっ、病気を馬鹿にするんならな、差別だって訴えてやるからなっ。おれが怒鳴ったら、二人は、また笑いはじめた。ギャハハハ、ギャハハハ、差別なんて、ギャハハハ、ギャハハハ。おれたちを、ギャハハハ、助ける、ギャハハハ、やつなんて、ギャハハハ。日本語といっしょに、ギャハハハ、ギャハハハ、消えちまってるよ、ギャハハハ。
習作掌編集 藤川遥 @morateny
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