第4話 ひな壇の秘密

 綾乃の肩に触れた冷たい指は、そっと動いた。


 ——何かを置くように。


 彼女の膝の上には、いつの間にか小さな箱があった。


 ぞっとする。


 震える指で蓋を開けると、中には古びた髪飾りと、黒ずんだ紙が入っていた。


 『私はここに囚われた。貴女はどうか逃げて』


 (囚われた……?)


 ——これを置いたのは、誰?


 その瞬間、視界の隅で何かがゆっくりと動いた気配がした。


 「……あやの……」


 かすれた声が、はっきりと自分の名前を呼んだ。


 反応してはいけない。


 でも、綾乃の首はゆっくりと横を向いてしまった。


 そこにいたのは——千佳だった。


 いや、千佳だった


 彼女の肌は土気色に変わり、目は真っ黒く染まっていた。口元は笑っているのに、涙が頬を伝っている。


 「逃げて……」


 千佳の声が震えた瞬間、綾乃の腕を何かが掴んだ。


 その手は、千佳のものではなかった。


 さらに奥の暗闇から、朧げな影が、ひな壇の人形と同じ十二単をまとい、ゆっくりと近づいてくる。


 その顔は、恐怖に歪んだ、歴代の「お雛様」たちのものだった。

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