【KAC2025】ひなまつりのうた【KAC20251】

御影イズミ

あの歌はどこまでも

「そういえば、こっちの世界だと『ひなまつり』ってあるんだってな」

「ん? うん。どうした急に」


 N県九重市に位置する如月探偵事務所にて、所長の如月和泉が異世界からの来訪者フォンテ・アル・フェブルの相手をしていた。

 フォンテの世界は様々な文化が持ち込まれる『世界と世界をつなぐ世界』。故に現代日本からフォンテの世界へ持ち込まれる文化もあり、その中の1つに『ひなまつり』があった。

 本来ならば女の子の健やかな成長を願うために行われる行事の1つであり、女児を見守りたがりな和泉もフォンテもテンションが上がる行事なのだが……。


「ひなまつりってなんで爆弾なんだ? ハゲ頭になるなら爆弾じゃなくても……」


 盛大な誤解から始まったフォンテのひなまつり。

 これには思わず、和泉が飲んでいたコーヒーを吹き出して書きかけの書類を汚してしまうほどだった。


「待て待て待て待て。お前はひなまつりの何を知っている」

「え。爆弾に明かりをつけてドカンと一発ハゲ頭になるってやつだろ?」

「全ッッ然違う!! なんでそんな文化が俺らのところにあるって思ってんだよ!?」

「えっ違うの!?!?」


 フォンテ曰く、『ひなまつり』の話を教えてくれた人間はある歌を伝授してくれた。和泉もよく知っている明かりをつけましょ、から始まる歌だ。

 ……が、伝授者はどうやら与太で広がりを見せる改変された歌詞でフォンテに通達しており、それが巡り巡ってフォンテのひなまつりの認識を曲解する形となってしまっていた。

 和泉がちゃんとしたひなまつりの内容を教えても、まだ納得がいかないという様子でコーヒーを口にしていた。


「まあ、その歌は俺が子供の頃にも流行ったからな。おかげで原本はネットで調べねぇとわからないぐらい」

「なんでそんな替え歌が流行ってんだよ」

「なんでって言われてもなぁ……」


 異世界人のフォンテからすると、そんな替え歌が流行ってる理由がわからないという。歌というのは史実や物語を語るものとして使っている世界の人間だからこその感想だ。

 逆に和泉は、これがこの世界で起こる遊戯でもある、と笑った。子供の頃はそうやって替え歌を作って遊んで、いつの間にか広がりを見せていたものだからと。


「……でもネットがなかった時代、全国共通で替え歌はあったんだよな……」

「こわ。お前らの世界ってホント不思議すぎるよな」

「不思議の世界からやってきてるお前に言われたかないわ」


 ひなまつりの季節になると、あの歌が聞こえてくる。

 原本も、替え歌も、昔からある日本の歌で……。

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