東京の空の下 ~短編集~
月夜野すみれ
第1話 ひなまつり
「おわ! なんだ、これ!」
高樹の家に遊びに来た俺は思わず声を上げた。
部屋には大量のヒヨコがいたのだ。
床一面ヒヨコで埋まっている。
「これ、食べていいの?」
一緒に来たミケ――猫又である――が言った。
「なわけないだろ!」
俺がすかさず突っ込んだが、
「いや、頼むことになるかもしれん」
高樹がうんざりした表情で言った。
「おい!」
「いや、どうにもならないだろ、これ」
高樹が答える。
「こんにち……うわ! なに、これ!」
ドアを開けた秀が驚いたように言った。
「ミケの食べ放題?」
秀の横から顔を覗かせた十代半ばの美少女――武蔵野綾が言った。
ちなみに綾は妖狐で秀の彼女で俺の祖母ちゃんである。
「なわけないだろ!」
俺が再度突っ込む。
「こんにちは!」
秀や祖母ちゃんには「入れ」と言いたかったが(いや、俺の部屋ではないのだが)下手に入ってくるとヒヨコを踏みそうである。
「お邪魔します」
雪桜が入口から真っ直ぐに入ってくる。
「おい! 雪桜」
俺が慌てて雪桜を止めた。
「なに?」
「なにってヒヨコ……」
「え、どこに?」
雪桜が驚いた表情で辺りを見回した。
それでようやく悟った。
このヒヨコは生き物ではないのだ。
「祖母ちゃん、これなんの
「化生じゃないわよ」
祖母ちゃんの答えに俺の顔から血の気が引いた。
「うわーーー!」
俺は慌てて祖母ちゃんの後ろに隠れた。
化生は平気だがお化けは怖い。
「なんで高樹の部屋にヒヨコのお化けがいるんだよ! 高樹! ヒヨコに何したんだ!」
「何もしてない……ていうか、化生じゃなかったのか」
高樹が冷静に言った。
ヒヨコのお化けが大量に湧いてるのになんで平然としてるんだよ!
「焼き鳥の食い放題にでも行ったんじゃないのか!」
「肉を食って幽霊が出るならお前の部屋だって動物で埋まってるはずだろ」
「じゃあ、ヒヨコを虐殺したとかじゃないのか?」
「なわけないだろ」
高樹が突っ込む。
「祖母ちゃん! こ、これ、一体……」
俺が震える声で訊ねると、
「心当たりは?」
祖母ちゃんが振り返って聞いた――お化けに。
高樹の家の隣の家には女の子の
そしてたまに高樹の家にも来る――地縛霊じゃないのか!
「ーーーーー!」
俺は声にならない叫びを上げて祖母ちゃんの後ろで縮こまった。
「ヒナ祭りだって」
お化け(女の子の方)が答える。
「ひなまつりは三月だろ! 今は十二月だ!」
俺は震える指で部屋の隅に飾られているクリスマスツリーを指した。
その時――。
トリの降臨!
部屋の中にでっかい
「ごめんなさい、日にち間違えちゃったわ」
雌鶏はそう言うと一声鳴いた。
その声と共に雌鶏とヒヨコは姿を消した。
「クリスマスと桃の節句間違えたんだね」
秀が笑いながら言った。
「待て! 場所を間違えたとは言ってなかったぞ! 三月にまた来るんじゃないのか!」
「げ……ミケ、ひなまつりにあいつらが来たら食ってくれ」
高樹が言った。
ヒナを食ったりしたらあの雌鶏に祟られるのではないかと思ったが黙っていた。
祟られるとしても高樹とミケだ。
俺達は予定通りクリスマスパーティを始めた。
『ヒナ祭り』 完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます