第2話 佐由理奏と私

あの日から、私の生活は大きく変わった。

佐由理奏さゆりかなでが、私と一緒に暮らすことになった。

以前は親しい妹のように思っていた幼馴染。


今、彼女は私のすぐ隣で眠っている。

彼女の寝息が耳元に響き、顔が近すぎて、まるで私の思考

の中に入り込んでくるように感じる。


あんなに涙で顔を濡らしていた奏が、今は穏やかな顔で眠っている。

少しは落ち着いたのだろうか、勿論、私もこれで安心できた。


数週間前


大学を後にした私は、バイト先へと向かった。

大学近くの駅で改札を通った、電車に乗った。


居酒屋でホールスタッフとしてアルバイトをしている。

19歳だが、このバイトは居心地が良く、それほど手間もかからない。

フリーターを続けるつもりはないが、今はこれでいいと思っている。


大学からバイト先までは電車で二十分かかる。

その間、毎日読書をしている。今日はたまたま電車の中が静かで、本の内容に集中できた。

恋愛小説だが、集中できない時でも、まあ良いと思っている。


イヤホン越しに電車の音が頭の中に響いた。

本を読んでいる時、時間がゆっくりと過ぎたように感じた。

まもなく目的地の駅で降りた。バイト先は5分で到着した。


店長と店員さんに挨拶をし、奥にあるロッカーに鞄を

置いて、トイレを脱衣室として使い、服を着替えた。


働く居酒屋の制服は、ロゴの付いた黒い和風シャツと黒いパンツだ。

脱衣室を後にし、カウンターでお客様を待つことになった。

この居酒屋はそんなに人気があるわけではないけれど、毎日、常連客の数は多い。


閉店後、私は家の方に向かった。

歩いて数分かかった。

でも、目的地は今、私の家ではない。

幼馴染の奏ちゃんの家に向かっている。


その理由はただ、奏ちゃんと遊びたいから。彼女は全然家から出てこないから、私は彼女に対して憐れみの気持ちがあると思う。

その理由で、頻繁にバイトの後に彼女と遊ぶ。

遊ぶのは、アニメを見たり、ゲームをしたり、ゴロゴロしたりなど。そして私と彼女の時間はのんびりと過ごす。


今日は奏の部屋でアニメを見た。


「なんか、歩美ちゃん、このアニメあまり面白くないね?」

「そう?私にとってはすごく面白かったよ?なんで?」

「恋愛とか興味ないし、なんで他人の幸せを見なければいけないの?」


多分、今の奏ちゃんの理想は正しいと感じた。

恋愛なんか馬鹿みたいなものだ。

前に読んだ小説もそう。

でも、アニメとか小説とかの恋愛はフィクションである。

リアルとフィクションを間違えるわけがない。

フィクションだからこそ過剰な演出ができ、リアルより幸せな関係を描ける。


アニメを見た後、私は眠そうな奏ちゃんをじっと見つめていた。

彼女はベッドにうつ伏せになっていた。

寝息のようなものが聞こえ、口元はわずかに上下している。


ストレートで綺麗な黒髪が、頬を隠すように流れている。

それを邪魔に思った私は手を伸ばし、指で彼女の髪を耳にかけた。

素顔が露わになり、彼女の長いまつげが閉じた目を縁取るように見える。

本当に天使みたいだ。

家ほとんど出ないせいで、肌は透き通るように白い。

細く長い手足は、奏ちゃんの特徴だと思う。私より背が高いのに年下なのは、少し不思議な気がする。


「うん?歩美ちゃん?なにしてるの?」


私は慌てって腕は奏ちゃんの顔から離れった。

彼女はゆっくりとうつ伏しった姿勢を直った、ベッドで星座をしった。


彼女の髪は元のようにもどった、耳にかっかた髪はストレート

の髪に戻った。

奏ちゃんは私をじっと見つめている。

頬が少し赤くなった気がした。


「いや、なんでもないよ、ちょっと奏ちゃんは可愛いなと思ったたけ」


笑い混じり声で言った。


「ええ!?何よ、歩美ちゃん、私、全然可愛くないもん!」

「いや、可愛いじゃん」


彼女の頬はさらに赤くなった。

本当に、可愛い過ぎ。


奏ちゃんの家を後にして、私は近所にある自分の家へ向かった。

途中でコンビニに寄り、弁当を買った。

料理が苦手で、両親もいないから、

普段はコンビニ弁当だ。奏が少し羨ましい。

両親がいるから、美味しいご飯を作ってくれるだろうし、掃除も任せられる。

本当に羨ましい。


家に帰ると、私はすぐに自分の部屋へ向かう。

家の中の沈黙が気まずくて、部屋以外では落ち着かない。


袋に入っていた弁当を手に取り、テーブルの上に置いた。

バイト代で買った半額弁当は、普通の味だ。

悪くはないと思う。


誰かと一緒に食べれば、もっと美味しく感じるのだろうか。

誰かと一緒に食べる人がいないせいで、普通の弁当も寂しく思える。


晩ごはんの後、私はベッドに倒れ込んだ。

ゴロゴロする間もなく、すぐに眠ってしまった。

質の良い睡眠とは言えないけれど、当然のように朝が来た。


大学にいる時は退屈で仕方がない。

別にレベルの低い大学というわけではないけれど、講義を聞いていても

眠くなるばかりで、内容に興味も持てない。


先生の遠くから聞こえるような軽い声に、集中できるはずもなかった。

大学に入学してから、友達を作る機会が全くなかった。

友達と言えるのは、奏ちゃんだけかもしれない。


幼馴染だから、今もそんな関係が続いている。

奏ちゃんのことを思い出したら、胸の中が満たされた

ように熱くなった。顔の火照りばかりを感じる。


なぜだろう。


彼女のことを考えていると、最近、どうしてこうなるのか分からない。


今日は奏ちゃんの家に行かなっかた。

バイトの後に私はすぐ家に向かった。

家に到着した時に私はベッドに転がった。


奏ちゃんの家に行かない日は、最近憂鬱な一日になることが増えた。

すぐに彼女の顔が浮かび、想像の中で吐息が聞こえるようになった。

彼女の唇の動きと共に漏れる息が、頭の中に溢れてくる。


「本当にどうしよう~」


そんなことを考える途中に睡魔が来た。

私は白い空間に移動したかのように、全方向が真っ白に見えた。

眩しさを感じる目は反射的に瞬き。


何の音も聞こえない。体を動かすと、軽く起き上がった。

歩いてみると、私の足は応じた。


視線は空間を観察していたが、何もなかった。聞こえないが、私の

鼓動が早くなっているのが分かった。


足元に視線を落とし、素足を見ると少し姿勢が崩れた。

再び前を見ると、空間の奥に人影のような模様があった。

無限に広がる空間の奥に、うつ伏せの人影があった。


私は崩した姿勢を元に戻し、その方向へ歩き出した。しかし、先ほどまで

軽かった体が、今は重く感じる。

一歩ずつ人影の方向へ歩みを進める。

好奇心と緊張が入り混じる中、人影との距離が縮まった。


歩美あゆみちゃん」


人影の方に声が聞こえた、そしてその声は私の名前を呼んだ。

知っている声だ

の声だ。


「奏?…」


私は声を応じるように彼女の名前を呼んだ。

少し驚いたせいで、私は一歩後ずさりしようとしたけれど、

彼女の声は私の体を引くように、前にあった人影は、奏ちゃん自身

に見える、そして、目の前にあった。


うつ伏せたままで私は下を見るしか出来なかった。

奏ちゃんの目が私をじっと見つめていた。

私は彼女の目を見返した。

眼中にいる奏ちゃんは、二日前の奏のように

ベッドに寝転んでいる姿勢をしている。


目眩しそうな光景で私は奏ちゃんの隣にしゃがみ込んだ、そして

彼女は私に声をかけった。


「ね、歩美ちゃん、わたしの事、どう思うの?」


え?なんで奏ちゃんはそんなことを?


「奏ちゃん?なんで急にそれを?」

「質問に質問で答えないでください、紫織しおり


奏ちゃんの声は前より鋭い、何を催促しているように。


「どう思うかって、奏ちゃんは…私の友達だよ。知ってると思うけど。」

「それ以外、何も思わない?」


もう一度追及めいた口調で奏は言った。

なぜそんなに…


「えと……奏ちゃんは優しいし、可愛いし、顔もいいし、そして…」

「…そして?」

「あ…、うん、何もないごめん」

「困ったね、歩美ちゃん、わたしはね、歩美ちゃんの事、好きだよ。」

「はあ?」

「ずうっとそうよ、昔からそして今も、歩美ちゃん好き」


奏ちゃんが何を言っているのか分からない。

好き?私を?

混乱した脳内を追うように、動悸が速くなった。

ドキドキ。

ドキドキ。


私にとって、奏ちゃんは何?

鼓動の速さを考えると、多分、その答えは奏ちゃんと同じだ。

けれど、奏ちゃんは私の友達で、幼馴染で、そして、私の好きは彼女の好きとは違うはずだ。


奏ちゃんが見つめる中、彼女の体が私の方へ向いた。

彼女の手が私の顔へと伸び、そして、私の頬を覆った。

私はその手を掴んだ。

このまま、ずっとこうしていたいと思った。

離したくない。


「奏ちゃん、私、あなたのことも…」

言いかけた言葉は、突然の目眩で途切れた。

奏ちゃんの姿が消えた。


「私と一緒にいてほしい。」


消えてしまった奏ちゃんに、この言葉が届くはずもない。

けれど、私は言わずにはいられなかった。


奏ちゃんがいない、こんな《未来》なんていらない。

私はその未来を拒絶するように舌打ちをした。


今なら、自分の感情が何なのか分かる。

彼女と一緒にいたい。

目が覚めた時、隣に奏ちゃんがいてほしい。

そう思った。


蜃気楼のように消えた奏ちゃんが、私を好きだと言った。

けれど、ここは夢だと分かっている。

現実だったら、困るだろうな。


目が覚めると、当然のように、奏ちゃんの姿はどこにも居ない。


「本当に夢だったのかな~」

私は悔しいそうに呟いた。


二度寝しようとしたけど、結局眠れなかった。

この世界の方がいいかもしれない。また奏ちゃんに会えるから。


そう考えると、スマホをチェックした、大学に行く時まで時間がある。

ベッドから体を起こすと、キッチンに向かった。

軽く朝ご飯をとると、大学までの時間をのんびりで過ごした。


大学の後、私はバイトに行かず、すぐに奏ちゃんの家に向かった。

今日は調子が悪いと言って、休みをもらった。けれど、それは嘘だ。


調子が悪いというよりも、奏ちゃんに会いたくて、

奏ちゃんとの時間を増やしたいから、自分のわがままを正当化するために

嘘をついた。


あの夢のせいで、奏ちゃんに向き合うのは緊張した

けれど、彼女の笑顔を見た時、すべてが安堵に変わった。

眩しい笑顔で私を迎えてくれた奏ちゃんに、安心した。


絶対に、一緒にいたい、奏ちゃん。

どうか、消えないで。

そばにいたい。

そして、今日も彼女と楽しい日々を過ごした。

この日々が、どうか続きますように。

私はそう祈っていました。




























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孤独な彼女は恋で支える話 時雨 @Shigure9934

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