第44話 女子の敵

【宮城翔】

 

 末広さんが、思い出したように、

 「待って工藤。さっきあんた巫女さんの服を誰が着るか、勝手に決めていたわよね。」

 

 「おう!」

 

 「もしかして、スタイルで決めていたわけじゃないわよね。」

 

 「当たり前じゃねぇか!やっぱり体の凹凸がはっきりしたやつが着ないとな!ムーンゼロみたいにな!」

 

 「………………。」

 女子全員が絶句していた。そうなるよな。

 それから真、いい加減ムーンゼロのイメージは捨てろ。

 

 「くたばれ!このキチガイ!」

 

 「女子の敵!!」

 と女子から大激怒の声が聞こえてきた。


 真に向かって、チョークや鉛筆、消しゴムなどのいろんなものが投げられた。

 「危ねェ!」

 向かってくるものを全部避けていた。真、反射神経いいな。

 

 「てめぇら!人に向かってモノ投げちゃいけないって、おばあちゃんに教わらなかったのか!!」

 こんな時でも「おばあちゃん」か。ブレないな。

 

 「あんたは、変態だからいいのよ!!」

 

 「頭の中から私たちのサイズのこと消してやる!!」

  

 佐川が、

 「皆さん落ち着いてください!!工藤君がいないときちんとした衣装ができませんよ!!」

 

 「みんな!佐川の言う通りよ!まずは、落ち着こう、ね。」

 と末広さんが、女子の気を静めるように、自分自身も落ち着けるように手を前に広げて、言った。

 

 具志堅さんが

 「あの、加藤さんが『工藤をどうするかは運動会が終わった後で決めればいい。終わったら用済みだから』って言ってます」

 具志堅さん、またそのまま言っちゃうの!?

 

 「確かにそうだね。」

 

 「後で覚えてなさいよ、工藤。」

 

 「工藤、死すべし。」

 女子から物騒な言葉が聞こえてきた。

 

 「最後に。工藤!!あんた、みんなのサイズのこと男子に言ったらだめだからね!!」

 一番重要なことを確認していた。

 

 「末広、なに当たり前のこと言ってんだ?オレがそんなヤベーことするようなヤローに見えるか?」

 

 「工藤のくせにまともなこと言ってんじゃないわよ!!」

 

 「見える見えないの問題じゃないのよ!!」

 女子から、怒りの声がまた出てきた。真、火に油を注ぐなぁ。

 

 末広さんが

 「分かった。一応信じることにする。みんなもいいわね!」

 半信半疑みたいだな。

 真は、そんなことしないと思うけど。しないよな?

 

 その様子を見ていた藤田と村田から

 「…俺、これから工藤と関わるのをやめようかな。」

 

 「俺も…。」

 という声が聞こえてきた。

 

 他の男子からも

 「工藤真!恐ろしい奴!」

 という声だけが聞こえてきた。

 

 佐川だけが、

 「素晴らしい!その運動会にかける執念!実に素晴らしい!!」

 と絶賛していた。

 

 末広さんが、

 「佐川。そういうことじゃない。佐川も席に戻れ!」と、佐川を突き放した。

 せっかく団結していたのに、真が佐川以上に変人扱いされてしまった。

 

 「よし分かった!!」

 真がいきなり大きな声を出した。

 

 「みんな聞いてくれ!!オレもやりすぎちまったかもしれねぇ!!だから!!衣装の出来で返す!!明日までにうちき壺装束つぼしょうぞくと巫女の衣装を一着ずつ作ってくる!!」

 

 「本当にできるの。」

 

 「噓じゃないの。」

 

 「勢いで言っちゃたんじゃない。」

 本当に大丈夫か。真。

 

 末広さんが、

 「工藤、言いたいことは分かったから!もう黙れ!!今日は、衣装を着る人が決まったから、これで、今日はこれで良かったと思う。そう思いたい。生地の話は、明日のホームルームにしましょう。」

 

 4限目の終わるチャイムが鳴った。

 末広さん、やっぱり素晴らしい。

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