第5話 具志堅さんが、いない その2

 私が、気が付くと、午後4時ごろになっていました。

 椅子に座って、寝ていたようです。


 お母さんは、ぐっすり寝ていました。

 今日も、私が夕食の準備をすることにしました。

 下に降りて行って、夕食の肉じゃがを、作り始めました。


 午後6時ごろに、お姉ちゃんが学校から帰ってきました。

 「あれ、もしかして、沙苗、今日も学校行かなかったの?」

 と、お姉ちゃんが尋ねました。

 

 「うん、お母さんが急に熱を出して。」

 「そう、また、沙苗、お母さんのこと見てくれたんだね。いつもありがとう。」

 「うん、大丈夫。」

 「お風呂に入ってくるね。」

 お姉ちゃんは、そういって、階段を上っていきました。

 

 お姉ちゃんが、お風呂を上がってから、二人で、夕食の準備を続けました。

 「お姉ちゃん、後でお姉ちゃんとお父さんに話したいことがあるの。」

 「お母さんのこと?」

 「そう。」

 

 7時半を過ぎたころ、お父さんのたもつが帰ってきました。

 お父さんは、お母さんの体調が悪くなってから、残業はせずに家に帰ってくるようになっています。

 

 夕食を取っていると、

 「沙苗、また、学校休んだのか?」

 と、お父さんが尋ねてきました。


 「うん。」

 「そうか、いつも、ありがとう。ただ、学校は、ちゃんと行ってくれ。」

 「うん。」

 「お父さんが、有休をとって、会社休んでもいいから。」

 

 すると、お姉ちゃんが、

 「私にも、相談してよ。」

 と、言ってくれました。

 

 私は、

 「お父さん、話したいことがあるの?」

 「また、女の人が見えるということか?」

 

 「沙苗、まだ見えるの?」

 「うん、見えるよ。」

 

 「その女の霊が、母さんに取り憑いているんだろう。」

 「多分。」

 「沙苗は、その霊のおかげで、母さんが病気になっていると。」

 お父さんは、ため息をつきながら、困った目で私を見ていました。   

 

 お姉ちゃんが、

 「お母さん、病院からもらった薬を、飲んでも良くならないし。入院しても、暑い暑いって、病室の温度を下げなくてはならなくなって、病院も困っていたしね。」

 「良くならないかなぁ…。」

 お姉ちゃんは、泣きそうな声で言いました。

 

 「お父さん、お姉ちゃん、知り合いのユタさんにお母さんを見てもらいたいんだけど。」

 「ユタ!?」

 お父さんが、びっくりして大きな声を上げた。

 

 「ユタって、沖縄にいる霊媒師のことだろう?どこで、そんな人と知り合ったんだ。」

 「まだ、直接会ってはいないんだけど。」

 「会ったことない?SNSか。何かで知り合ったのか?」

 「私と同じクラスの宮城君っていう子のおばあさんなの。」

 

 お姉ちゃんが、

 「霊媒師なんて、怪しくない。信じられるの。」

 と、尋ねてきました。


 「でも、私は、その子のおばあさんならお母さんのこと、絶対助けてくれるって信じてるから。」

 と、自分の思っていることをそのまま言いました。


 お父さんが、

 「沙苗は、そんなに信じているのか。」

 お姉ちゃんが、

 「まったく会ったことないのに、信じている理由が分からないよ。そのクラスメイトにも騙されているんじゃないの。」

 と言われました。

 

 私は、水曜日に会ったことを話すかどうか、迷いました。

 

 お父さんが、

 「お母さんの病気を治してくれるなら、お父さんは、霊媒師でも、誰でも構わない。ただ、騙されるのはいやだな。」

 口を手でふさぎながら、言いました。

 お姉ちゃんも、頷いていました。

 

 お父さんが続けて言いました。

 「霊的なことで、人を騙す人は、いるよ、沙苗。そのような宗教団体もあるだろう。もしかすると、そのクラスメイトもおばあさんも、そんな宗教団体のメンバーかもしれないよ。」

 と。


 (やっぱり、お父さんでも信じてくれないよね。)

 私は、少し悲しくなりました。

 

 私は、水曜日に起きたことを話そうと決意しました。

 恐らく、普通の人に話してもあの体験は、分からないと思います。

 だけど、信じてもらうためには、話すしかないと思いました。


 「宮城君も、宮城君のおばあちゃんの麦ちゃんも、そんな人じゃないよ。いい人だよ。」

 「お父さんとお姉ちゃんは、信じないと思うけど、麦ちゃんが、私に憑依したの。」

 

 お姉ちゃんが、

 「沙苗に憑依って、何?」

 「私の体を、一時的に宮城君のおばあさんが使ったの。」

 

 「それで、沙苗は大丈夫なのか。」

 お父さんが、あまりにも心配した顔で聞いていたので、少し笑ってしまいました。


 「私、全然元気だよ。」

 「そうか。それで、憑依されてどうなったんだ。」

 「男子を蹴り飛ばしたの。」


 お姉ちゃんは、驚いていました。

 「蹴り飛ばした、沙苗が!」

 お父さんは、頭を抱えていました。

 

 お父さんが、 

 「なぜ、その子を蹴り飛ばしたんだ。」

 「宮城君は、学校でいじめに会っていて、水曜日の朝、男子三人が、宮城君を脅しているのを見たの。」

 

 お姉ちゃんとお父さんは、うなずきながら聞いていました。

 「私は、いじめを止める勇気もなくて、クラスのみんなも気づかないふりしてるの。」

 「でも、私は、授業中も、宮城君のことより、お母さんのことが心配で、『お母さんを助けて。』と祈っていたの。」

 

 私は、話を続けました。

 「水曜日は、宮城君も、私も掃除当番で帰るのが同じだったの。下校をしていたら、前を宮城君が歩いていて、気になって後ろからゆっくり付いていったの。」

 「コンビニの前に来たら、コンビニから宮城君を脅していたあの3人組が出てきて、無理やり宮城君を裏路地に、引き込んでいったの。」

 

 「私、心配になってついていくと、頭の中に『体借りるよ、沙苗ちゃん、お母さんは麦ちゃんに、任せなさい。』って、声が聞こえてきて、体が勝手に動いて、工藤君という男子を蹴り飛ばしていて、他の二人の顔を殴っていたの。」


 「沙苗が、男の子の顔を殴ったの。」

 お姉ちゃんは、少し喜んでいるようだった。

 

 「それから、どうしたの?沙苗!?」

 「止めを刺すように、3人の男子の膝を蹴ったの。」

 「おぉ…。止めを刺す。いいじゃん!」

 お姉ちゃんは、喜んでいました。

 

 お父さんは、

 「それで、沙苗は、本当に体は大丈夫なのか。」

 と、心配してくれました。

 

 「木曜日は、少し筋肉痛はあったけど、今は大丈夫。」

 「それは、良かった。そのユタさんは、他人に憑依できるほどの霊能力者なんだ。沙苗、今も、操られているということは、ないか。」

 

 お父さんは、少し怖がっているようでした。

 

 すると、お姉ちゃんが、

 「ねえ、お父さん、その麦ちゃんは、孫を助けるために、一時的に沙苗の体を借りたんだと思うよ。そして、お礼に、お母さんを助けるってことだと思う。」

 と、お父さんを説得してくれました。


 「私も、そう思うよ。お姉ちゃん。」

 「そうか、真苗は、そう思うのか。人として、信用できるかどうかは、別として、沙苗の話からも、かなりの霊能力者ということは、分かるよ。」


 お父さんは、

「うん。そうだな。沙苗が噓をつくとも考えられないからな。」

「そのユタさんなら、お母さんを治してくれるかも知れない。」

 と、つぶやきました。


 お姉ちゃんは、

 「私、麦ちゃんと会ってみたい!」

 と、声を弾ませていました。


 今夜の夕食が、終わったのは、9時ごろになっていました。

私が学校を休んだことを心配したのだと思います。

コネクトには、宮城君からメッセージが来ていました。

「心配してくれて、ありがとうございます。お母さんの熱が急に上がったので、看病のために学校は、休みました。」

「明日は、8時に大菊駅前にいきます。」

 と返事を送りました。

 宮城君から、

「分かりました。大菊駅で待っています。」

 とメッセージが返ってきました。

 それから、すぐに、

「大丈夫。おばぁが必ず助けてくれるよ。」

 とメッセージが返ってきました。

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