迎えうつ王者たち

迎えうつ王者たち

* 東郷源治 TOHGOH,Genji *

https://kakuyomu.jp/my/news/16818622170338128654

日本 34歳(高卒) 男子クロスカントリー

チームブリッジスティール・キール(ブリッジスティール)

競技スタイル:オールラウンダー

バックボーン:ロードレース&ピスト

尊敬する選手:市川雅敏

来歴:

 競輪選手の家庭に生まれる。本人も自転車競技の道に進むことに異存はなかったが、成長とともに競輪(ピスト)よりもロードレースで目覚ましい結果を残すようになった。

 若かりし日には「ツール・ド・フランスに最も近い日本人」と呼ばれたが、あくまで日本国内での活動に軸足を置くチームの方針もあって、結局本場ヨーロッパのチームとの契約には至らず、そのキャリアは後半に入った。

 チームの要請もあって、ロードと並行してMTB(クロスカントリー)にも参戦するようになる。近年はさすがに全盛期ほどの力はなく、ロードでは一歩身を引いた「選手兼任監督プレイング・ディレクター」的なポジションに定着しているが、MTBの世界ではまだまだ彼の王者チャンピオンの座を脅かす者は現れていない。”皇帝エンペラー”の治世は、当分続きそうである。

内面:

 チームの枠を超えて自転車競技会全体のリーダーとしての役割を期待する周囲に応え、度量の広い兄貴分を演じてはいるが、心の奥底ではついに本場で活躍する夢がかなわなかった自らの半生を引きずり続けている。

 もはやこの先成長することの見こめない競技生活を続けることにいい加減虚しさを覚えているが、それでも引退という行動を起こさないのは、実際に彼を上回る新たな人材が現れないからである。とにかく「自分のクビを切ってくれる奴」が現れるまで、自ら腹を切る気は源治にはない。

 沖田真純には若いころより「その役割」を期待していたが、「いつまで経っても頭でっかちなところが直らん」と、そろそろ突き放しぎみである。今シーズンよりエリートクラスにエントリーを果たした博幸に、次なる「新世代」への期待をひそかに寄せるが、現状はまだ「自転車ワッパが好きで自転車ワッパに乗っているうちは、まだまだ俺には勝てんよ」という評価である。


* 沖田真純 OKITA,Masumi *

https://kakuyomu.jp/my/news/16818622170338165938

日本 24歳(医大卒) 男子クロスカントリー、ダウンヒル※、デュアル※

チームブリッジスティール・キール(ブリッジスティール)

競技スタイル:スピードマン・トルク型/グリップ/ランニング/ロジカル

バックボーン:水泳&トライアスロン

尊敬する選手:東郷源治

来歴:

 名のある医師の家庭に生まれる。本人の頭の出来もよく、順調に学歴を重ねていったが、内心では親の敷いたレール通りに進む人生に欲求不満を覚えていた。

 そのエネルギーはスポーツに向けられ、まずは水泳(長距離)で優秀な成績を残す。一方で本人は機材スポーツへの思いが強く、医大に進むころにはトライアスロンの世界で名をはせるようになっていた。

 さらに新しいメカニズム、自分の力だけでは勝てない環境を追い求めるうち、MTBで不滅の記録を残し続ける東郷源治の情報に触れ、「僕が本当に求めていたのはこれだ」と転向、ブリッジスティールと契約した。

 水泳で培った基礎体力の高さ、トライアスロンで身に着けた平坦でのスピード維持力が最大の武器。一方で地頭の良さから、科学的なトレーニング手法、新しいレース戦術を誰よりも早く取り入れ、自分のものにしていっている。レースで勝つときは「それほど速いとも思えなかったけど、気が付いたら前に出られていた」とライバルたちが語る、巧みな戦略の組み立てが光る。その巧みさと学歴の高さから”博士<ドクター>”の異名で呼ばれる。

 裏返すと考えすぎるあまりに消極的なレース運びに終始し、勝負の機会を逃してしまうのが負けパターンでもある。「博打バクチも張れるようになれれば、俺の肩の荷も下りるんだけどな」とは、チームリーダーの東郷源治の弁である。

 裕福な実家と端正な容貌、そして”皇帝エンペラー”の直接の後輩というポジションから、女性ファンの間からは”王子プリンス”の名でも人気を集めるが、ライバルたちからは同じ二つ名を「資金面で優遇されていることへのやっかみ」の意味合いで頂戴している。

 機材への強い興味からダウンヒル、デュアルにもエントリーしているが、こちらは「頭が良すぎるがゆえの、慎重すぎる走り」で成績は際立っていない。

内面:

 一見不自由のない身分に見えるが、彼なりの悩みはある。その主たるところは、家族が自転車レースに身を投じることに理解を示してくれないことである。

 親、兄弟、親戚等は、自分たちの進んだ道の通り、あるいは世間の常識的な価値観の通り、「いい学校に通って、医者と言わずともいい職業に就くこと」を常日頃から真純に言い聞かせている。一般的な人がそうであるように、マウンテンバイク(あるいはトライアスロン)と競輪の区別も付いておらず、真純の望みに対しては「バクチなんて」の一言で切って捨てている。

 これまでの人生も、周囲から設定された「競技を続けるための条件」を本人の努力によってクリアすることで自分の道を切り開いてきた。

 そろそろ新人・若手と呼ばれる時期も終わりが近づき、いよいよ「掛け値なし」の勝負が求められる年齢になって、周囲から受けるプレッシャーもますます厳しくなっているのが彼の重荷である。なので「新しい世代」の台頭には見た目よりはるかに敏感になっている。


* 犬飼猫 INUKAI,Neko *

https://kakuyomu.jp/my/news/16818622170338208471

日本 21歳(大4) 女子クロスカントリー、ダウンヒル、デュアル※

テラ・ガールズチャレンジ(テラ)

競技スタイル:パシューター/ドリフト/グラウンド/オールラウンダー

バックボーン:スピードスケート

尊敬する選手:橋本聖子

来歴:

 本名は違う漢字だが、選手として身を立てるにあたりあえてこの字で登録している。

 北海道に生まれる。スポーツと言えばスキーかスケートかという土地柄で、彼女はスケートを選んだ。本人はフィギュア・スケートを希望していたが、体力と体格に恵まれていたこと、ネガに言えば「フィギュアをやるには体が大きすぎる」ことからスピードスケートに進んだ。

 順調にそのキャリアは進み、若くして五輪代表を確実にしている。距離も好き嫌いがないオールラウンダーである。スケートでの地位を確かなものとした頃から、「オフの夏場のトレーニングを兼ねて」と自転車、MTBに身を投じた。というわけで実はスケートの方が本業である。

 MTBでも日本女子には珍しい、フィジカルでコース上の障害をねじ伏せるスタイルで若くして女王の座を得た。クロスカントリーが主戦場だがダウンヒルでも活躍。技術面の比重が大きく、スケートにはない「タテの変化」をメインとするデュアルだけがやや苦手か。

 大学に進むころより芸能活動も始める。恵まれたルックスと、持久系スポーツの選手には珍しい豊かな体型、そして明るいキャラクターで、少ないながらテレビ出演などの機会も得られている。

 とはいえこの「三足のわらじ」に対しては、スケート、自転車、芸能、どの業界からも良い印象を得られていない。とくに自転車競技界からは「スケートで十分活躍しているのだから、そちらに専念してほしい。さもなければアイドル」との評価である。「イヌネコ」「アイドル」などの二つ名を持つが、いずれもそれぞれの業界内でのネガなニュアンスを少なからず含んでいる。

 昨シーズン、雛形輪がエリートクラスに参戦したことにより、MTB(XC)での女王の支配力にはやや翳<かげ>りが見られている。技術面を鍛えて、DH、デュアルにも力を入れるとのシーズン前のコメントだが…。

内面:

 明るい、悪く言えば「軽い」キャラに見えるのは実はすべて演技。当の本人はもう長いこと、女子スポーツの地位を向上させることを真剣に考え続けている。MTB、アイドル、さらにはネットと、新しい分野に次々と首を突っこんでいるのも、どうにかこれらの世界で頑張る女性たちを少しでも知ってもらいたいという、切なる思いゆえである。

 そんなわけで外からの人気は高いのだが,ヒネた自転車オタク共からは「どうにもチャランポランとしていて好きになれない」と敬遠されている。年齢、競技界でのポジションも釣りあい、ルックスにも優れた同士、さらには微妙に内輪からは嫌われる者同士という沖田との関係をよく取り沙汰されるが、さて当の本人たちの気持ちはいかがなものか。

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