KAMAKAZE(カマカジ)

飛鳥つばさ

VTT0 あいつと出会ったあの日

 俺の人生が始まったあの日のことは、今でもかなり確かに覚えている。

 きれいな花が咲く、風が気持ちよくて暖かいよく晴れた日だった。

 見慣れない街にやってきて、「あぱーと」を出て、ぴかぴかの「おうち」を買って。

 オフクロとオヤジも、どこかうわついた気分を隠せない「おひっこし」の日だった。

「ヒロちゃーん、あんまり遠くに行っちゃだめよー」

 背中から追いかけてくるオフクロの声が、俺の記憶のはじまり。

 三歳の子どもにはとんと分からない、大人たちのむつかしい話にあきて。

「げんかん」を後にして、「おにわ」に出て。

「まど」から「おへや」をのぞきこんで――

 ――そこに、あいつがいた。

 ふたつの「たいや」。

「はんどる」。

「いす」。

 ペダルとクランクなんてものはまだ分かってなかったけど、くるくる回せば前に進んでくれる、足もと。

 ずっと、あいつを乗り回すにーちゃん、ねーちゃんたちを指をくわえて見ていて。

 だけど、なぜかそいつらをぶって横取りする気にはならなかった。

 あいつが、とうとう俺のものになった。

「じてんしゃ」が――


 ――次の記憶は、赤くなった空。

 小さな「こうえん」のど真ん中で、俺は盛大に転んでいた。

 からからとまぬけな音を立てていっしょに転んでいるあいつ。

 まだぜんぜん、思いどおりに動いてくれないもの。

 どうしていきなり「ほじょりん」を外したのか、あきらめて付けなおす気にはならなかったのか。

 このへんの気持ちは、今でもよく説明できない。

 とにかくとっぷりと暗くなるまで、俺とあいつは転び続けて。

 あの日だけで、俺もあいつもずいぶん傷だらけになって。

 ようやく転ばずに走れるようになった、あの瞬間<とき>の気持ちは、今でもはっきり覚えている。

 今から、はじまる。

 ここから、はじまる。

 あいつといっしょの、いつでもいっしょの、俺の「だいぼうけん」が。


 そう、あの日あのとき、ほんとうはもう分かっていた。

 この先ずっと、俺はあいつといっしょに生きていくことになるんだって――

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