日常が崩れ行く音

美杉。(美杉日和。)節約令嬢発売中!

第0話 終わりの始まり

 やや薄く開かれた青いカーテン。

 その向こう側には、いろんなマンションからの煌びやかな明かりが入り込む。


 しかし部屋の中はどこまでもゴミで溢れ、玄関を開けた瞬間何とも言えない匂いが漂っていた。

 そして部屋の中いっぱいに湧き上がる虫たち。

 新鮮な空気が玄関から入り込んだせいか、虫たちは玄関目がけて飛んできた。


 そして私の横をかすめ、外へと逃げ出す。


 虫すらも逃げ出すような惨状。

 そしてナマモノが腐敗したようなすえた匂い。


 言葉は出てこなかった。

 ただ目の前のものを信じられず、口に手を押さえながら靴のままゆっくりと中に入る。


 部屋の一番奥。

 小さなローテーブルに、見覚えのある後姿があった。

 床には垂れだしたものがシミを作り、残っていた虫たちはそこにとどまっている。


 どこまでも小さく、私にとって一番の宝物だったもの。

 近づかなくとも、そこに突っ伏すように眠る彼女が、もう光を放っていないことなどすぐに頭は理解した。


 だけどいくら頭が理解しても、心が体全てがそれを受け入れることを拒む。


 どうしてこんなことになったのだろう。

 最後に電話をしたのはいつだっけ。

 どうして、どうして……。


 言葉にならない叫びを上げると、ふいに玄関の戸が音を立てて閉まった――

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