花火大会 3
花火大会が始まる30分前になったが、ここで蓮と徳島先輩がいなくなってしまった。
どこに行ったのだろうかと心配していると、一ノ瀬先輩が大丈夫だと言うので察することができた。
「まだ行きたいところある?」
『あ、りんご飴買いに行ってもいいですか?』
「じゃあ俺が買ってくるよ」
『いや、すぐ帰ってくるので待っててください!』
そう言って、さっき4人で通った道を戻る。
しばらく走った後、先輩の視界から外れたところでしゃがみ込んだ。
やっぱり痛い……。
普段はスニーカーしか履かないせいかサンダルを履き慣れていない私のつま先やかかとからは出血していた。
電車に乗ってからずっと痛かったが先輩たちに心配をかけたくなかった。
蓮がずっと前から楽しみにしてたのを知っていたから…。
…とりあえず、どうにかしないと。
ヴーヴー
携帯が追い討ちをかけるように鳴り出す。
電話かな?誰だろ…。
『もしもし…?』
「乃蒼ちゃん今どこ?」
一ノ瀬先輩だ。…電話越しにすごく息切れしているのが分かった。
『あ、大丈夫ですよ。すぐ戻ります。』
「そう言うことじゃなくて……。」
『?』
「乃蒼ちゃん、今何してるの?」
『何って、りんご飴買いに…』
「本当に?」
『え、…なんでですか?』
「今、俺から見える乃蒼ちゃんはりんご飴なんか持ってないけど。」
そう言われて前を向くと、
…さっきまで電話していた先輩が心配そうな顔をして立っていた。
『どうしてここに…』
「全然戻ってこないから心配で探してた。」
『…すみません。』
「いや、それよりこっちの方が大変でしょ?」
そう言って私の足に絆創膏を貼る。
『先輩、それ…。』
「うん。乃蒼ちゃんが無理して歩いてるのには気付いてた。」
『じゃあなんで…』
先輩は、私の考えを見透かしたかのように話す。
「迷惑、かけると思ったんでしょ?」
目をしっかり見てこんなことを言う先輩を騙せるわけもなく、認めざるを得なかった。
「やっぱりね。…4月に俺が言ったこと覚えてる?」
『えっと…』
「乃蒼ちゃんが最初にマネージャーの仕事した日だよ。」
4ヶ月も前のことなんてあまり覚えていない。しかも入学早々、先輩と話した記憶も…
……あ。
そういえば、助けてもらったことがあった。
『…”困った時は頼る“ですか?』
「そう。頼って?」
『はい…。じゃあ』
先輩はキョトンとした顔でこちらを見る。
『あ、歩けないのでおんぶしてください…』
言っちゃったぁぁ!もう、ほんとに恥ずかしい!
自分でも顔がだんだん熱を持ちはじめたのを感じた。
暑い…。
先輩は少し顔を逸らした後、私のことを持ち上げた。
『えっ!先輩、これおんぶじゃない…』
「浴衣なのにおんぶは無理でしょ?消去法だよ。」
そう言ってお姫様抱っこされる。
「これから行きたいところあるんだけど、いい?」
『あ、はい…。』
「ありがとう、しっかり捕まっててね。」
時間を確認すると、花火が上がるまであと10分だった。
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