2人だけの秘密
ー次の日
今日も早い電車で学校に行ってみた。
先輩いるかな…。
体育館に行くと、昨日と同じくボールの跳ねる音が聞こえてくる。
ドアを少し開けて中の様子を伺うと、ボールが転がっているのが見えたが、先輩の姿はなかった。
あれ?
『……なんだ。一ノ瀬先輩いないんだ。っうわっ!』
そう呟いた瞬間、いきなりドアがガラガラッと開いた。
私が重心をかけていた方の扉が急に動いたので少しよろけたが、すぐに筋肉質な腕に支えられる。
「あれ!?乃蒼ちゃん?ごめん、そんなとこに人がいるなんて思わなくて…。」
『え?先輩!?今、どこに居ました…?』
「え、そこ。」
先輩が指を指した方を見ると水筒が置いてあった。
…そこは見えないですって。
「で、今日はなんの仕事しに来たの?」
あ、そーだった。
『えっと…。こ、これを先輩に…。』
朝作ってきたおにぎりを渡す。
「え、本当に作ってきてくれたの?」
すごい驚いている先輩を見て少し不安になる。
もしかして迷惑だったかな…?
「ありがとな。これで今日も頑張れる。」
そう言って笑ってくれた。
『よ、よかったです。じゃあ、私はこれで…。』
「え、帰っちゃうの?」
『は、はい。どうかしましたか?』
私になんか用事でもあるのかな?
「……もう少し一緒にいたいかも…。」ボソッ
『え?』
いいいい、今、なんて⁉︎
「……じゃなくてっ……今日は練習、手伝ってくれないの?」
先輩が耳を真っ赤にして、目を逸らしてそう言った。
多分私の心臓は先輩以上にバクバクしてる。…なんなら先輩に聞こえてるかもしれない。
さっきの行動といい今の発言といい…。先輩のせいで私の心臓が持ちません。
『手伝えます、よ?』
一応答えてみる。
「ほんとに?何かやりたいことがあって学校早くきたんじゃないの?」
『いや、今日の仕事は先輩におにぎりを渡すことだけなので…。』
って私何言ってるの??!!
自分で言うとなんだか意識してしまって、改めて恥ずかしくなってしまい下を向く。
「じゃあ、今日も手伝ってよ。」
『…大丈夫ですよ。』
私の心臓は大丈夫ではないけどね。
練習が終わると先輩がおにぎりを食べながら話しかけてきた。
「ねーねー、乃蒼ちゃん。」
『はい、どうしました?』
私もおにぎりを食べながら返事をする。
「もし、良ければなんだけど、明日からも練習手伝ってほしいんだ。乃蒼ちゃんが手伝ってくれるとできる練習の幅が広がるし。」
『それなら蓮に私から言っておきましょうか?私なんかよりずっと上手いし…。本番の練習にも⋯』
「いや、朝練は内緒にしててさ。言いずらいんだよね。」
やっぱり、みんなには言ってないのか…。
『まさか、知ってるの私だけですか?』
「うん、乃蒼ちゃんと俺だけの秘密。」
先輩は耳を赤くしながらそう言った。
私もつられて顔が熱くなる。
2人だけの秘密、か…。なんだか嬉しい。でも秘密にする必要なんて…。
『…なんで秘密にしてるんですか?』
そう聞くと先輩はギクッとした。
あ、聞いちゃダメなやつだったかな…?
「⋯最近みんな腕上がってきてるじゃん?大事な試合も近いし追いつきたくてさ。秘密じゃないと意味ないでしょ?」
そっか…。先輩そんなふうに思ってたんだ。
今更だけど、誰よりも上手な訳がわかった気がする。
『その気持ち分かります。周りにどれだけ上手いって言われても、自分はそう感じないですよね。』
私もそうだった…。誰になんと言われても、ただ上手くなりたかった。
『…わかりました。私に先輩のお手伝いさせてください。』
「やってくれるの?嬉しい。」
喜んでいる先輩を見て私まで嬉しくなる。
「じゃあ、明日からよろしく!あと…。」
『はい?』
「…蒼生って呼んでよ。朝だけでいいからさ。」
驚いて先輩を見ると、耳が真っ赤になっている。
『わ、わかりました…。』
…やばい。私、心臓持つかな?
そうやって、2人きりの朝練が始まった。
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