おにぎり
それから練習を続けていると、朝のホームルームの時間が近づいてきた。
「そろそろ、切り上げるかー。」
『そうですね、片付け手伝います。』
「ん、ありがと。じゃあ、ボール拾って倉庫に戻しといてくれる?」
『わかりました!』
私がボールを拾いに行くと、先輩はネットを片付け始めた。
先輩とモップをかけていると、隣からぐぅーっという音がなった。
隣を見ると耳を赤く染めた先輩がいる。
「…聞こえた、よね?うわ、恥ずかしー。」
『先輩、まさか朝ごはん食べてないんですか?』
「いや、食べたんだけどさ、やっぱ運動するとお腹空いちゃうんだよね。」
まぁ、分からなくもない。
『先輩、もし良ければ私が持ってきたおにぎり食べます?』
「え?」
先輩が目を見開いて驚いている。
余計なお節介だったかな…。
「いいの?」
先輩はキラキラした笑顔でそう言った。
『は、はい。2つあるので。』
私はモップを片付けながら返事をする。
…そんなにお腹空いてたのか。
リュックからおにぎりが入っている袋を取り出して、先輩にあげる。
『ど、どうぞ。私が作ったのでお口に合うかわかりませんが…。』
「いやいや、ほんとに有難いよ!いただきます。」
大きな口でおにぎりを頬張る。
私は、おぉ、そんな風に食べるのか、なんて思いながら先輩の反応を見ていた。
先輩は1口目のおにぎりを飲み込むと、
「すっごい美味しい!こんなに美味しいおにぎり、初めて食べた!」
と眩しい笑顔で言ってくれた。
『先輩のお口にあって良かったです。』
私も自分の分のおにぎりを食べながら言う。
私は料理が得意なので、先輩に喜んでもらって嬉しかった。
「ご馳走さまでした。すっごい美味しかったよ。毎日食べたくなっちゃうくらい。」
『え?』
私は驚いて先輩の方を見る。今、なんて…?
「あ、毎日作ってってことじゃなくて、それぐらいおいしかったってこと。…まあ、毎日でも食べたくなったのは事実だけど。」
最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかったけど、こんなに喜んでもらえるなんて想定外で嬉しかった。
2人で体育館の端に座っていると予鈴が鳴った。
「あ、鳴っちゃった!教室行かなきゃ。」
『先輩、鍵は返しておくので先に帰ってて大丈…』
鍵を取ろうとすると、上から伸びてきた手に先に取られてしまった。
「俺が返しておくから先行きな?」
『でも、私の教室の方が職員室に近いのに。』
「乃蒼ちゃん、たまには素直に先輩に甘えていいんだよ。」
わかった?って首を傾げながら言ってくる。
先輩、それ、反則です…。
『わ、わかりました。じゃあ、よろしくお願いします!』
「ん、また放課後。」
体育館から出て急いで教室に向かう。
『お、おはよう。どうしたの乃蒼、今日遅いじゃん。』
『おはよう、雪ちゃん。ちょっと部活の朝練してたの。』
そう言って自分の席に着く。
ふー、疲れた。
先輩、明日も朝練するのかな?…おにぎり、作ってあげようかな。
そのまま放課後になり、部活に行ってマネージャーの仕事をこなす。
時々、一ノ瀬先輩の様子を見たけれど、みんな先輩が朝練していることは知らなさそうだ。
これは…みんなには言っちゃダメなやつだな、蓮も知らなそうだし…。
私は黙ってることにした。
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