闇の中に光を求めて

久遠 れんり

過去の過ちと、反省。そして……

「おらっ!! 酒を買って来いよ」

 いつもの様に叫び始める夫。


「どこに、そんなお金があるのよ。仕入れにも困っているのに」

「やかましい。俺が悪いのか?」

 この所ずっとこんな感じ。そうよあなたが悪いのよ。言いたいけれど、言えば手が出る。


 この人は私の夫。

 大学時代には、賢く優しかった。

 多少大きな事を言って、引くことがあったけれど、彼に望まれて、付き合っていた彼を裏切り…… 私は夫と結婚をした。


 若かったと言えば言い訳、私の実家はそんなに裕福では無かった。

 だから…… 


 そう……

 彼の語る夢に、幸せな未来を夢見てしまった。


 それまで付き合っていたそう君は、どこまでも優しく愛してくれたが、彼のようなギラギラした欲望は無く、食べていければ普通で良いという人だった。


「お金持ちになりたい?」

「うん。私、貧乏は嫌なの」

 彼と最後の駆け引き。


 自分で何かを変えようではなく、相手に対して依存。

 何かをして欲しい。

 それが当然の様に思っていた。

 それは、周りに居た友人の考えが大きかった。

 女と生まれたからは、幸せにしてもらうのが当然。

 付き合ってあげるのだから、結婚をしてあげるのだから。


 それが当然…… 本気でそう思っていた。


「幸せに生活ができるのじゃ駄目なの?」

「お金持ちになって、贅沢に暮らすのが私の幸せなの」

「そうなんだ…… 判ったよ」

 そう言って彼は、悲しそうな目を見せて、私の元を離れた……


 そして私は、私を望む夫と結婚をした。


 だけど、大きな事を言い、考えも行動も常識も無く、ただ突っ走る夫。


 人に使われる会社員など嫌だと言って、実家からの援助で会社を興す。


 だけど、社会経験も無く適当では、当然失敗をする。

 そして、彼はすべての失敗を、人のせいにするのが得意だった。


 そうそれは、悪循環を生み続ける行為。


 何をかも失敗して、最悪への道を歩み始める。

 無論、彼の両親からも、会社を二回潰して見捨てられた。

 私の実家は、そもそもあてにならない。


 そうね、私の望んだ生活は一年も持たなかった。

 社長夫人。

 何不自由ない暮らし……


 それは、すぐに支払いの電話におびえ逃げ回り、頭を抱える暮らしへと変わった。

 それでも彼は、居抜き物件を見つけて、商売をすると言って、わずかな間にもう引き返せない所へと踏み込んでしまった。


 私は、否応なく夜の世界へ、そうね売られたみたいなもの……

 日銭が必要で、普通の会社など無理。


 そこに、やって来るサラリーマン達。

 ママさんに言わせると、昔に比べるとお客も減ったとぼやいている。

 そう、世の中は物価高で不景気。


 そんな世界で成功するのは、経験があっても難しい状態。

 そんな時に、経験も何もなくやりたいからと言って飛び込んだ夫。上手く行くわけなど無い。


「昔とは違うのよ。ささやかでいいの。幸せに暮らせるなら……」

 疲れた様子で、ママさんが教えてくれる。


 彼女も、結婚ができない相手だけれど、パトロンさんが居て、なんとかお店が出来ているという。

 困り切っていた私を、余裕がないのに助けるために雇ってくれた。


 そう、普通の生活が難しい時代に、今の日本は踏み込んでいる。

 そんな事など知らなかった……

 見ようとしなかった……


 そんな時にやって来たお客様。

 ママさんの友人が、若い人を連れてきてくれたらしく、氷やミネラル、お通しなどを用意して持っていく。


 狭い町、その中に彼がいた。

 そう君は評判が良く、期待の新人だと言って、紹介される。


 そう最悪……

 彼もすぐに気がついただろう。

 髪型も、化粧も全く違っていたのだが、見た瞬間彼の動きが止まった。


 嫌だ逃げたい。でも、それは出来ない。

 なんとかとか作り笑いをして、相手をする。


 一緒に来ている女の子達が、彼にしなだれかかる。

 だけど、適当にあしらう彼。

 彼と離れて四年。


 彼は随分大人っぽくなり、難しい話しを楽しそうに語る。

 関税の影響がどうとか、それによるコスト高と、回避。

 

 それを笑顔で聞く上司の人達。


 彼が眩しい。私は幾度か席を離れ、勝手に浮かぶ涙を拭う。


 光の中に居る彼……

 日の当たらない世界に落ちた私……


 帰りに、電話番号を渡すと受け取ってはくれたが、会話することは無かった……


 でも、彼からの電話を私は心待ちにする。

 私を、なんとかしてくれるのを期待して……

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闇の中に光を求めて 久遠 れんり @recmiya

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