とりあえず生で~中途半端でなんも考えたくない私~

@shimashimaenaga

第1話 私の進路の選び方

「とりあえず生で」


メニュー表は一応、見るけれど、社会人はきっとこういう回答が望ましいとされている。


23歳にもうすぐなりそうな4月___スーツを着て見様見真似で電話をとって、名刺を渡して、同期と腹を探り合いながら仲良くして____


ちょっとは社会人という着心地の悪い仮面と鎧を着こなせているだろうか。


グラスは目上の人より下で乾杯しなきゃなぁと思いながら、ぼーっとしていたら、黒部上司からこんな質問が飛んできた。


「君はなんでうちの会社入ったの?」


「あー、地域貢献したかったし、クリエイティブな仕事したかったからですかね?」


「へ~!いいじゃない!俺なんかさ、高卒で先生が勧めてきた会社がここでさ、受かったここにしたんだよね。全然、自分で選んだ感じしないんだよな~」


「でも、課長、すごい会社を愛してるし、ご活躍されてるじゃないですか~!!」すかさず、上司のご機嫌をとる40代の増川さん。目の前で、すりばちでゴマをすっている。二重の意味でごまをすっている増川さんはなかなか、芸術点が高い。


今、思えば、私だって黒部上司と同じでこの会社を自分で選んだ感じはしないのだ。


「とりあえず生で」


こんなテンションで内定承諾書にサインしてしまった気がする。自分の人生をこんなテンションで決めちゃいけないんだろうな・・・そんなことが頭をよぎったけれど、早く、就活を終わらせたい。早く、自由の身になりたい。そんな、目先の欲望を優先してしまった私は、すごく適当に会社を選んでしまったのだ。


とりあえず地元の中学校に行って、とりあえず部活と勉強を頑張って、とりあえず地元の進学校に行って、とりあえず地元の国公立大学に行って・・


それなりに、私の人生は「とりあえず」でどうにかなってきたし、満足してきた。後悔は無いし、それ以外に道は無かったんじゃないかなと思う。


けれど、とりあえず、地元で有名な企業に入った私の人生は少しずつ、歯車が軋む音がし始めていた。







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