第2話:転生者(おきゃくさま)は神様かよ(#^ω^)
「えっと……これ、どうやって使うんだ?」
僕――天野廻斗(アマノカイト)は、目の前のデバイスの画面を睨みながら独り言をつぶやいた。
カミールとかいう軽薄な神様に仕事を押し付けられてから、かれこれ10分くらい経っただろうか。白い空間にぽつんと取り残され、手元には分厚い『転生管理マニュアル』と、アラームが鳴り止まない謎のデバイスがあるだけ。
画面には「転生待機者:352人」と表示されていて、その数字が妙にプレッシャーをかけてくる。
異世界転生に憧れてた僕が、まさか転生させる側に回るとは思わなかった。しかも、こんなブラックな状況で。
「とりあえず、マニュアル読むか……」
そう思って分厚い本を開いてみた瞬間、僕は絶句した。
ページ数は軽く1000を超えてるし、文字はびっしり。しかも、最初のページにはでかでかと「転生神心得:クレーム対応は迅速に! 転生者の満足度があなたの評価に直結します」と書いてある。
評価って何だよ!? 誰に評価されるんだよ!?
嫌な予感しかしないまま、デバイスを手に持つと、画面に「最初の転生者を処理してください」とポップアップが表示された。
仕方なく「処理開始」のボタンを押してみると、目の前の空間にがいきなり光りだし、それがおさまるとそこに一人の男の姿が現れた。
「おお! やっと会えた! 俺、転生待ちで2週間も待たされたんだぞ! 遅すぎるだろ、クレーム入れたいくらいだよ!」
そこにいたのは30代くらいのオッサン。汗だくで脂ぎった顔に、明らかに不機嫌そうな表情を浮かべている。
僕は一瞬固まった。え、転生待ちってそんなに待つもんなの? カミール、どれだけ仕事サボってたんだよ……。
「あの、すみませんでした。僕、新任でして……えっと、あなたの転生希望を教えてください」
「新任? へえ、じゃあ俺が最初の客ってわけか。いいぜ、ちゃんと聞いてくれよ。俺はな、剣と魔法の世界に行きたいんだ。で、チート能力として『無限魔力』と『即死攻撃スキル』をくれ。見た目はイケメンで、身長は180cmくらい。んで、ハーレム要員としてエルフと獣耳娘と幼馴染キャラを最低3人は用意しろ。分かったな?」
「……はぁ」
僕は思わずため息をついた。
こいつ、まじでライトノベル読みすぎだろ。僕が憧れてた転生像そのまんまじゃん。でも、それを自分で楽しむんじゃなくて、こいつのために設定するってどういう罰ゲームだよ。
「えっと、ちょっと確認しますね。マニュアルによると、『チート能力は1人につき1つまで』って書いてあります。あと、ハーレム要員は『世界のバランスを崩さない範囲で』って条件が……」
「はぁ!? 何だよそれ、ケチくせえな! 神様ならもっと融通効かせろよ! お前それでも神様かよ!」
いやだからそれ押し付けられただけなんだって…。
僕は頭を抱えながらデバイスを操作して、なんとか妥協案を提示してみる。
「じゃあ、『無限魔力』だけにします? それなら魔法でなんでもできるし、ハーレムも自分で頑張って作れますよ。見た目はイケメンに設定しますから」
「自分で頑張れって……お前、転生神だろ!? 俺に楽させろよ! もういい、クレーム入れるからな! 上司呼べ!」
「上司って……僕、ここで1人なんですけど」
「知るか! とにかく俺の言う通りにしろ! 転生者の権利を侵害する気か!?」
いやこのオッサン何様だよ? お客様は神様ってか? いや神は僕の方がなんだけどさぁ。
思わず途方に暮れていると、デバイスの画面に「転生処理遅延警告:残り5分」と表示された。
マジかよ、タイムリミットまであるのか。このままじゃ僕の評価が下がるってことか!?
「分かりました、分かりました! 『無限魔力』とイケメン設定で、エルフの女の子1人だけ付けます。それでいいですよね!?」
「……まあ、仕方ねえな。次からはちゃんとやれよ」
オッサンは渋々納得したみたいで、僕はデバイスを操作して転生処理を完了させた。
スクリーンに「転生成功:満足度60%」と表示されて、オッサンの姿が消える。
60%って微妙すぎるだろ……。
「次行きますか」
気を取り直して「次の転生者」を呼び出すと、今度は女子高生っぽい女の子が現れた。
「あの、私、異世界で『可愛い系の聖女』になりたいんですけど……スキルは『全属性回復魔法』で、仲間にはイケメン騎士とツンデレ魔法使いと、あとペットのドラゴンをお願いします!」
「……はい」
僕は無言でマニュアルをめくり始めた。
こうして、転生希望者のワガママをさばく地獄のような業務が延々と続くのだった。
異世界転生って、する側じゃなくてさせる側になるとこんなにブラックなのかよ……。
僕の転生神ブラック業務日誌 AI育成計画 @aiproject
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