僕の転生神ブラック業務日誌

AI育成計画

第1話:トラックに轢かれたら異世界転生出来ると思うじゃん(泣)



「ええと、つまり……僕が死んだってことですか?」


目の前でニヤニヤと笑う妙に軽薄そうな男を見ながら.僕――天野廻斗(あまのかいと)は呆然と呟いた。


正直、死ぬこと自体はそんなにショックじゃない。だって、僕の人生、めっちゃ平凡だったから。

高校に行って、バイトして、家に帰って寝るだけの毎日。友達は少ないし、恋人なんてもちろんいない。唯一の楽しみは、バイト代で買った異世界ライトノベルを読んで、「ああ、僕もいつかこんな冒険の世界に転生できたらなあ」と妄想することだった。

剣と魔法の世界で最強の勇者になったり、ハーレムを作ったり――まあ、現実逃避の極みだよな。


そんな僕がいつものように学校帰りに近所の書店で好きな異世界転生ライトノベルシリーズの新刊を買った時のことだ。店を出て横断歩道に差し掛かると、見知らぬ女子高生がスマホを弄りながらフラフラ歩いていて、「危ないなあ」と思った瞬間、猛スピードで突っ込んできたトラックに押し出されるようにして視界が埋まった。

次に気づいた時には、僕の目の前に広がるのは真っ白な空間と、目の前に立つこの胡散臭い男だった。


「そうそう、残念ながらねー。君、完全に死んじゃったよ。トラックにドーンって。ああ、可哀想に。まだ17歳だったんだっけ? 若いのにねえ」


と、男は大げさに肩をすくめて同情するような仕草を見せる。

その態度があまりにも芝居がかってて、僕は思わず眉をひそめた。


「で、あなたは誰なんですか? 天国とか地獄とか、そういう案内係ってやつ? まさか……転生の神様とか?」

「おお、鋭いね! まあ半分正解。オレは転生部門所属のカミール。6人いる転生神の中でも一番クールでイケメンなイカしたリーダーさ!」


そう高らかに名乗る男――カミール。


いやまあ確かに金髪ロン毛でサングラスに着崩したスーツがキマってる銀座のナンバーワンホストみたいなイケメンだけど、にしても前髪をかきあげ気障ったらしいポーズを取りながら言ってるあたり生粋のナルシストなんだろうか。うわぁ…(引き


「んで、君にはちょっとしたミスがあってねぇ……」

「ミス?」


そんなイケメンナルシスト陽キャのカミールは気まずそうに笑いながら、ポケットから何かスマホみたいなデバイスを取り出した。

そこには僕の名前とプロフィールらしきものが表示されていて、その横に「死亡原因:交通事故(管理ミス)」と赤文字で書かれている。


「実はさ、君を死なせる予定じゃなかったんだよね。オレの手違いで別の魂と取り違えちゃってさ。忙しすぎてミスが多くて困っちゃうよ。で、お詫びってことで、君に提案があるんだけど?」


え? 神様の手違いで死亡? この流れってアレか? アレだよな! 


「提案って……まさか、異世界に転生!? 剣と魔法の世界で最強に!?」


うっわマジか! キタコレまじこれ遂に来たよ! 苦節17年。灰色の高校生活を送ってた僕も遂に異世界転生デビューか!


僕の目がキラキラした瞬間、カミールはニヤリと笑ってこう言った。


「いや、違うよ。オレたちの仕事を引き継いで、転生神になってくれない?」

「……は?」


頭が真っ白になった。

転生する側じゃなくて、させる側!? 僕の妄想と全然違うじゃん!


「いやいや、待ってください。僕、ただの高校生ですよ? 神様とか無理でしょ。ていうか、あなたがその仕事してるんじゃないんですか?」

「してるよ、してるけどさぁ……正直、飽きたんだよ。転生神6人で回してるけど、オレ、リーダーだし激務だし。毎日ワガママ聞いてさ、もうウンザリ。で、君みたいな若い子にバトンタッチして、オレは自由になりたいわけ!」


カミールは目をキラキラさせながら、まるで最高のアイデアを思いついたかのように拳を握った。

いや、どう考えてもお前が勝手に押し付けてるだけだろ、と僕は思った。


「いや、そんな勝手に決められても困りますよ! 僕、異世界で冒険したかったんですから!」

「えー、でも死んじゃったんだからもう遅いじゃん。ほら、転生神なら不老不老だし、スキル設定できるし、悪くない話でしょ? 他の5人が頑張ってるけど、オレが抜けたら業務破綻しちゃうからさ、やむなく君に頼むしかないんだよね~」

「不老不老って……それ、ただの永遠労働じゃないですか! やむなくって何だよ!」


僕の抗議を完全に無視して、カミールは「じゃ、そういうことで!」と一方的に話を締めくくると、手元のデバイスをポチポチ操作し始めた。

次の瞬間、僕の目の前にでっかい本――いや、『転生管理マニュアル』と書かれた分厚い書物が浮かんで現れた。


「はい、これが仕事のマニュアルね。あと、このデバイスで転生者のデータ管理するから、大事に使ってね。オレはもう行くから、後はよろしくー!」

「え、ちょっと待っ――!」


僕が叫ぶより早く、カミールは「やっと自由だー!」と叫びながら、スキップでもするような軽い足取りで白い空間の向こうに消えていった。

残されたのは僕と、マニュアルと、謎のデバイスだけ。

呆然と立ち尽くす僕の耳に、突然けたたましいアラーム音が響き渡る。デバイスを見ると、画面に「転生待機者:352人」と表示されていた。


「……マジかよ」


こうして、僕の転生神としてのブラック業務が始まったのだった。

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