意欲とか才能とかの話

スズシロ

第1話 意欲とか才能とか

 最近、要約すると「自分に才能があると思って小説を書いているんですか」という内容を内密に言われたので、スルーしたかったんだけど、それをすると「あいつは才能を鼻にかけている」とか「才能ないのに可哀相、無自覚」とか言われて余計面倒になるターンとなってしまったので火消しの意味で書いておきます。


 それで逆に春先から温暖化促進になったらすみません。




 大学時代に、創作論を選択科目で取っていました。


 選択科目ということは、取っても取らなくても、卒業の単位には関係ないんですが、その創作論の先生が地元じゃちょっと有名な小説家の先生で、映画化もされてる方だったので、私はすっごく楽しみにして取っていたんですね。


(当時から下手でも小説は書いていた)




 その創作論の講義の最中に、その小説家の先生が


「来週はかきたいことをかいてきなさい」


 と、学生達に仰ったんですね。


 そうしたら、とある男子の学生が


「書きたい事がない人はどうすればいいんですか」


 そういうふうに、小説家先生にかみつくように言い出したんですよ。




 私ぽかん。


(え、君、なんでここにいるの)


 条件反射でそう思ったんですよ。


 何でって、冒頭にあるように、創作論は小説家の先生が創作の指導する科目で、選択ですんで、嫌なら取らなくてもいいんです。


 好きで、取ってる単位なのに、何言ってるんだと思って。


 既にここからして変なツボにはまってしまったんですね。




 そうしたら、


「書きたいことがない人間なんていない、何でも書いてきなさい」


 と、小説家先生。


「でも本当に書きたい事なんかないんです!」


 とぶちぎれ男子。


「誰でも何でも本当は書きたい事があるんだよ」


 と、小説家先生。


「書きたい事なんかない人間は」


「死ぬほど書きたいんだよね」


「だから書きたい事がない場合はどうすればいいんですか!!」


「ドストエフススキーがね……」


↑(トルストイだったかもしれないし、日本の作家だったかもしれない、そこは昔過ぎて忘れてるかも)




 この辺りで私、声立てて笑ってしまったんですよ。


 だって本当におかしかったから。


 小説家の先生はキャラ的に、小説を書く事とか読む事とか、そういうのを商売にするぐらいですから情熱系のご老人で、当然ながら、自分が小説書ける事とかを凄く大事にしてる人。


 そういう人からしてみれば、世間の人間も自分と同じように、書きたい事をたくさんもってるけど技術が足りないんだろうそれだけだろうきっとそうに違いない、と思い込んで生きていてもおかしくないぐらいの、昔、筋金入りの文学青年だったらしい人。


 それに対して、この男子、教室の隅でいつも一人で、虚空睨んでいるとこしか見た事のない偏屈っぽい人。私は一回も話した事ない。




 その二人がキャラに沿ったかみ合わない会話しているもんだから、変なツボにはまってしまって、声立てて笑ったんですね。


 そのことについてぶちぎれたのが、知り合いのとある女子。あんまり言いたくないけれど、体格はいい方だった。




 それで、その女子が、帰り道がてら私に怒る事怒る事、超絶怒りをぶつけてきたんですね。


 理由は




「彼は傷ついてるの!!」




 という話で、記憶をたどって話していた事を書いてみると、彼女も別に、その男子学生と話した事があるわけでも関係者の訳でもないらしい。


 その女子が、知り合いの男子とそのブチギレ男子の噂をした際に


 いつも一人で弁当食べているから、なにげに話しかけて


「うちどこ?」


 って聞いたら


「それを聞いて君に何の関係があるのか!!」


 と切れられたと。


 その男子は「ああそうだね」と引き下がった話を




 何故か三回ぐらいターンして聞かされて


「だから私は彼は深く傷ついている人だと思ってるの!」


「お前みたいに片目つぶって何でもかける奴とは違うんだ!!」


「自分が文章書くの得意だからっておごらないで!!」




 というふうに、すっごい勢いでまくしたてられて、こっちとしてみては怒りの根源が見えないんですよ。


 だけど、流石に何回も何回も、傷ついた人間を馬鹿にしたみたいな言われ方すれば、こっちもダメージは被るんですよね。


 帰り道30分たっぷり怒鳴られましたので。




 それで、家に帰ってから、来週の創作論を書こうと思っていたんだけど、才能がどうとか、意欲がどうとか、色々言われた事が煮詰まってしまったんです。


 で、当時、大人気だった漫画がスラムダンク。


 私、スラムダンクに詳しい訳ではないんですが、


「背が高いことも才能だと思うぞ」


 という例の話については賛成していたんです。




 私は、片目つぶって小説書くとかね、そんなことした覚えもないし、才能に奢った覚えはない。


(とりあえず、全国の高文連の小説コンクールの3回と2回の文集に作品掲載されてますが、それは高校生のみの話で、社会にもまれて書いた話ではないし、商売になった訳でもありません)。




 それで、才能というのを、当時、何だと思っていたのかと思うと、努力と熱量だと思っていました。


 というのを、今思い出せる範囲内で書くと、




「私には何の才能もないけれど、才能というのは何か、考えて見た。身長150㎝のバスケの選手と身長180㎝のバスケの選手が同じような練習をして、試合で同じような戦法を取ったら、180㎝のバスケの選手が勝つだろう。


 美人と不美人のアイドルがいて、同じような歌を歌い、同じような売り出し方をしたら、美人のアイドルの方が売れるだろう。


 才能とはそういうことである。


 それに対して、小説は関係がない。どれだけ本を読み、どれだけ物を書いたか、それだけが勝負だ。私は何の才能にも恵まれなかったから、文章を書くのかもしれない」




 というような内容の事を書いたんですね。


 音楽や美術は、楽器がいるし、画材がいります。これ結構高額って聞いた事があります。


 他にもいろいろ、世の中趣味とかあるけれど、小説とか文学に関しては、図書館だってあるし、紙とペンがあればどこでも文章は書けるし、文盲にならないように学校教育はデフォルトであります。


 だから、私にとって一番、才能ではなく努力と情熱が目に見える結果になったのが、こっちの世界だったんですよ。


 それとは別に、子供の頃からオタ属性で、スポーツ出来ない子だったので、自然とこっちに来たというのもありますが。




 それを読んだ小説家先生は、深く頷いて下さって


「お前の言ったとおりのことだ」


 と言いました。


「ただし、これだけは覚えておいて欲しいが、小説を書く人間は自分の才能を疑ってはいけない。知り合いのプロの小説家でも、統合失調症の奥さんに”あなたにモノなんか書けると思ってるの”と罵詈雑言を受けて、ヒステリーを受けて、酷いスランプになって一時期本が出せなかった事がある。それぐらい、小説を書くということは精神的な事だから、嘘でも才能を疑うな」


 とも言いました。




 それで、私は何とも言いようがなく……実際、才能とか目に見えないものを頼りに、書くのはちょっと辛そうと思ったんですよね。


 はい、才能って、目に見えなくて頼りないんですよ。私にとっては。




 その後の話。


 私に怒りをぶつけた怒り女子は、その講義に出ていなかったんですが、噂を聞いたらしく


「私の体格を当てこすっている」


 と素晴らしい脳内変換を行ったようなんですね。




 こっちにしてみれば、お前の発言の内容は気にしたが、体格や体重を気にした事はないよとしか言いようがないんですが。


 確かに、身長は私よりも10㎝ぐらい高かったと思いますが、クラスの女子の中では1~2を争う横幅でしたね……。




 ……。




 で、どうしても、その横幅がネックになったらしく、人の話もろくすっぽ聞かず、確認も取らずに、




「あいつに虐められた! 虐められた! 虐められた!!」


 と連発し、人の興味と同情を引いてメシウマ人生をスラムダンク全盛期から送っているようです。




 更にそこから発展して、私が高校生の時に高校生の小説コンクールで文集に作品が掲載された件までも「調査した」とかで、パクリとか盗作とか事実無根の噂を流しているそうですが、元を正せば




・体格


・才能




 コンプレックスならしいんですね……。


 私が講義で自分の横幅を当てこすったと思い込んだだけで、スラムダンクが「あなただけ見つめてる」の頃からずーっとずーっと「虐められた! パクられた!!」と噂流しているようなんですが。




 私には身に覚えのないことですので、何とも言いようがありませんが、言われっぱなしでいると次に何が来るかわからないので、明記しておきます。




・私は女性の容姿叩きはしません


・才能については目に見えないものを根拠にしません




以上です。


読んでいただき、ありがとうございます。

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