第42話

そして10月22日からは、カープにとって25年ぶりとなる日本シリーズの大舞台が――



 ――開幕する、その前に、その悲しいニュースは届きました。



 10月18日、黒田博樹、突然の引退発表。



 …いや、覚悟はしてたんです。

 2014年の12月末、ニューヨーク・ヤンキースのヒロキ・クロダが、20億円を超えるオファーを蹴って、古巣の広島東洋カープに復帰する、というあの感動的なニュースを受け取った時から、既にその予感はあったんです。


 嬉しかった。とてもとても嬉しかった。

 でも、こんな「普通の人間なら絶対にしない決断」を黒田がしたというその事実に「ああ、もう彼の野球人生は残り少ないんだな、黒田自身がそう判断したんだな」と、ファンは誰しもが理解していた。

 だから、遅かれ早かれ、この日はきっと来ると。

 そう、覚悟はしていたんです。


 でも、ファンはやっぱりワガママだから。


 1年でも、1ヶ月でも、たとえほんの1日でも、カープのユニフォームを着ている黒田をずっと見ていたかった。

 そう思うのはファンのワガママで、黒田はずっとそのファンのワガママに応え続けてくれていたんです。

 だから、そろそろファンも大人にならなきゃいけないね。

 とても、とても悲しいけど――


 そんなわけで、この日本シリーズは、カープファンにとって「25年ぶりの夢の舞台」であると同時に「黒田の勇姿を見る最後の機会」となったのでありました。



 ちなみに、黒田自身はこのタイミングで引退発表をするつもりはなかったんだそうです。

 日本シリーズに向けてチームメイトが集中している、ファンも盛り上がっている、そこに水を差すような真似はしたくないと思い、誰にも引退の気持ちは告げずに、日本シリーズが終わってからひっそりと発表したいと思っていたんだそうです。


 その黒田が唯一、引退の気持ちを打ち明けていたのが、長年の盟友である、新井。


 新井は「日本シリーズが始まる前のタイミングで発表すべきだ」と、黒田を懸命に説得したそうです。

 なぜなら新井さんはカープの選手である以前に、広島生まれの広島育ちの、生粋のカープファン。

 カープファンの気持ちとして、自分が愛した投手の最後のマウンドを目に焼き付けておきたいと思うはずだ。そうと知らされずに、いつもの試合のような気持ちで眺めてしまったら、きっと後悔する。

 だから、カープファンのために、ちゃんと「今」発表してくださいよ、と。

 それでも黒田は渋っていたそうですが、最終的には新井の熱意に根負けして、このタイミングで発表することを決めたのだそうです。新井さんありがとう( ;∀;)

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