第14話

「そんなん、別にお前がせんでも誰かがするわい。ええ加減、島に戻る気はないんか」

また、いつもの論争が始まった。兄が帰省すると、父はいつも兄にこう迫るのだった。

兄がこの島を出て都会の大学に入り、そのまま向こうで出版社に就職したことを、父は今でも根にもっていた。父は兄に蜜柑園を継がせるつもりだったから。

「…僕は…」

兄は口ごもった。兄が編集部の仕事を好いているのは、父も母も私も、よく知っていた。だから、兄が『キツい職場だ、地獄の作業場のようだよ』と不平を口にしても、家族は誰も本気には受け取らなかった。

(まだ島には帰らん…そう言うんじゃろ、お兄ちゃん)

私がそう思った時、兄は意外な言葉をぽつりと呟いた。

「…そろそろ帰ろうかな、と思ってる…」

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