第16話 回線の向こう側
『VR LIVE System シーケンス開始』
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Internet-Musume VR Live start.
【Special Live - June Edition】
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【Starting in… 3, 2, 1】
──Plug on!
眩い光がステージを包み込み、VRライブが幕を開ける。
視界いっぱいに広がるデジタルの星空が、観客アバターたちを包み込むように輝いていた。
金色のライトが交差し、ステージ中央を照らす。
──いつもの光景。
──いつものライブ。
けれど、どこか空気が違う。
「いくよ!」
すばるの掛け声とともに、イントロが鳴り響く。
観客が一斉にペンライトを掲げ、熱狂の渦が広がる。
『待ってた!』『全力で楽しむぞ!』『久々のフルライブ!!』
光の中、メンバーたちが一斉に動き出す。
ステージ上を駆け抜けるように、それぞれのフォーメーションへと移動する。
──『拝啓、推しに会えません!』♪
イントロが鳴り響くと、観客のエネルギーがさらに高まる。
滑らかなメンバーたちの動きが、ステージに広がっていく。
調和の取れたパフォーマンス、芯の通った歌声。
「拝啓、推しに会えません!」♪
なちの歌声が響き渡る。
笑顔のまま、軽やかにステップを踏み、観客に手を振る。
──これが、インターネット娘だ!
メンバーも観客たちも、言葉にできない何かを感じていた。
繰り広げられるステージに魅力され、一体化していく。
「そっちがダメなら こっちにおいで!」♪
ステージ中央にメンバーが集い手を挙げる。
弾けるように分散し、全員が会場全体を走り抜ける。
凛が高くジャンプし、手を振る。
すばるが観客を煽るように、熱気をさらに高める。
『やっぱライブは最高だな!』『久々のフルセット、熱い!!』『ああ、なんと言ってもね……』
──視線が、中央へと向かう。
フォーメーションの核。
そこを中心にフォーメーションが整う。
そして、自然と周囲の視線を集める存在。
──その姿が、確かにそこにあった。
「リアルの壁なんていらないよ!」♪
──まりあの声が響いた。
──瞬間、空気が変わる。
観客のリアクションが一気に跳ね上がる。
『まりあー!!』『よっしゃいくぞー!』『敬具ーー!!』
歌声がステージ全体を包み込む。
伸びやかな、どこか安心感を与えるようなトーン。
──まりあが、いる。
その事実が、観客たちを興奮の絶頂へ誘った。
恍惚とも取れる表情の観客たちと共にステージは進行する。
「会いたい!って叫んでも 返信ないまま」♪
まりあは、そこにいた。
センターとして、変わらぬ立ち位置に。
視線を送る。
自然な動きで、手を差し伸べる。
──当たり前のように、そこにいる。
けれど、それがどれだけ特別なことなのか、観客たちは一瞬で理解した。
『うおおおおおお!!!!』『まりあ、おかえり!!!』『復活おめー!!!!』
「ならばネットにダイブしましょう!!」♪
ちいかがまりあの隣に駆け寄る。
向かい合ってニカッと微笑み合う、二人で並んで観客席へと視線を送る。
──まりあの視線が、客席へと向く。
その瞬間、観客たちはもう何も疑うことはなかった。
まりあは、確かに帰ってきた。
「視線は独占! いつでも目が合う!」♪
視線が交錯する。
観客のアバターたちが、一斉にペンライトを掲げる。
「……!」
すばるが、まりあの方を見て、ふっと笑った。
彼女の笑顔が、今までよりも柔らかい。
──いつもと同じように歌っている。
でも、違う。
「まりあ、おかえり」
凛が、マイクを通さず、小さく呟く。
それが届いたのか、まりあが微かに微笑んだ。
──『Click here!』♪
楽曲が切り替わる。
この曲は、まりあが抜けた後、何度もライブで歌われてきた。
そして、今日。
「次の瞬間、世界が変わる」♪
センターで歌うまりあが、ゆっくりと観客に手を振る。
その動作が、会場全体の空気を変えていく。
『もう泣きそう……』『これが見たかった……!』『推しの復活、最高』
──ライブは続く。
変わらないもの。
変わったもの。
全てを受け入れながら、ステージは熱を帯びていく。
「私は帰ってきた、これた」
まりあは、その幸せを一人静かに噛み締めていた。
⸻
ステージに流れる余韻が、ゆっくりと消えていく。
観客席のペンライトが波のように揺れ、静かに明滅を繰り返す。
──ライブは、まだ終わらない。
照明が落ち、ステージ中央に薄く光が灯る。
まりあが、マイクを静かに持ち直した。
「……ただいま」
その一言が、マイクを通じて会場に響く。
──瞬間、観客の反応が爆発した。
『まりあおかえり!!!』『待ってた!!!』『泣く……』
「……皆さん、本当にありがとうございます」
まりあの声は、いつもよりも柔らかかった。
彼女は、一歩前に出て、観客一人ひとりを見渡すように視線を送る。
「こうしてまた、皆さんの前に立てること、本当に嬉しく思います」
『まりあ……!』『また会えてよかった』『本当に無理せずね』
「療養の間、私は何もできませんでした。でも、こうして戻ってこられたのは、ここで待っていてくれた皆さん、そして、一緒にこのグループを守ってくれたメンバーのおかげです」
──メンバーたちがまりあの背後に立ち、優しく見守るように微笑んでいる。
「……本当にありがとう」
深く頭を下げるまりあ。
その姿を見た観客のアバターたちが、拍手のエフェクトを送る。
『まりあちゃん戻ってきてくれてありがとう!』『みんなで支えてきたよ』『またここから!』
「それと……」
まりあは、一度息を吸い込み、真剣な表情を浮かべた。
「ここにいられなかった間、みんながどれだけ頑張っていたのか、私は知っています」
彼女は背後のメンバーたちを振り返る。
「みんながいてくれたから、インターネット娘はずっと続いていた。配信もライブも……全部守ってくれたよね」
なちが、少し照れくさそうに笑う。
「まあね! でも、まりあが戻ってきてくれたなら、それでいいんだよ」
「そうですわね」
あまねが静かに頷く。「私たちはただ、次に繋げるために続けてきただけですわ」
「うん」
せいあが少し笑いながら、「でも……まりあさんが戻ってきたことで、また新しい流れが生まれそうですね」
「……そっか、そうだね」
まりあは、ほんの少しだけ目を伏せ、再び観客へと向き直った。
「私は、ここに戻ってきました。でも、戻るだけじゃなくて、ここからまた新しい形を作っていきたいです」
『いいね!!』『また新しいインターネット娘を!』『これからが楽しみすぎる』
「みんなで、もっともっと、最高のステージを作っていきます」
まりあの言葉に、観客が再び熱を帯びる。
『まりあがそう言うなら、ついていく!!』『これからも全力で応援するよ!』
──まりあの視線が、再びメンバーたちへと向く。
「これからも、一緒に、よろしくお願いします」
「……当然よ」
すばるが微笑む。
「ここまできたんだから、もっとやれるよね」
ちいかが、にっと笑いながら拳を掲げる。
「はい」
もこが、小さく頷く。
「皆さんがいて、メンバーがいて、だから私がいる」
まりあが、最後に深く息を吸い込み、言葉を紡ぐ。
「──これからも!一緒に楽しみましょうね!」
観客のペンライトが、会場を埋め尽くす。
「それじゃあ、次の曲、いこうか!」
すばるが声を上げると、ステージが再び光を放ち、イントロが流れ出す。
ライブは、まだ続いていく。
新たなスタートとともに。
──その夜の星は、いつもより輝いているように見えた。
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『VR Live Systemを終了します』
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【むすチャン!】NetMusume Channel
『定期配信!ちぃ×すば』
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画面が切り替わると、ちいかとすばるの二人が並んでいた。
背景には、配信用のスタジオセットが映り、心地よいBGMが静かに流れている。
右上には「LIVE」の赤いアイコンが点滅し、コメント欄にはすでに多くの視聴者が集まっていた。
「こんばんはー!」
ちいかが軽やかに手を振る。
『今日も来た!』『ちぃ様!すばるん!』『昨日のライブお疲れ!』
「昨日のライブ、盛り上がったね!」
ちいかが明るく言うと、コメント欄が一気に活気づく。
『やっぱフルライブは最高!!』『新しい流れを感じた』『次の展開が楽しみ!』
「うん、久しぶりのフルセットだったから、なんか久しぶりでもはや新鮮だったね」
すばるが頷く。「最近はミニライブだったから、更に特別な感じがしたよね」
『ライブの熱量やばかった!』『このまま勢い上げていこう!』『次の公演も楽しみ!』
「みんな、本当にありがとうね」
ちいかの声には、少しだけ感謝の色が滲んでいた。
「久々のライブだったけど、いろんな部分で変化があったんだけど、みんなはどのシーンが印象に残った?」
『拝啓の入りが完璧すぎた』『Click Hereの演出エモかった』『最後のMC、グッときた…』
「うんうん、やっぱりライブは生でやると空気感が違うよね」
すばるがコメントを拾いながら微笑む。「あの場にいた人たちと、同じ瞬間を共有できるのがすごく好きなんだよね」
『やっぱリアルタイムの熱気が違うよな』『ライブならではの一体感!』『画面越しでもめっちゃ伝わった』
「ね、それって、配信とはまた違う良さがあるよね」
ちいかが画面を見つめながら、ふっと息を吐く。
「今回のライブで、また一つ新しい形が見えた気がするよ」
「これで、また次の、新しいステップが踏み出せるね」
すばるが、少し言葉を選びながら話し始める。
ちいかも、視線を落とした。
「うん、……久しぶりのフルライブってこともあるし、振りも新しくしたし、正直ちょっと緊張したよね」
『新演出!神演出!!』『なんか新しい挑戦って感じだった』『久々だから余計に意識した?』
「うん、間違いなく意識はしたよね」
すばるが頷く。「でも、そういう緊張感って、逆に良い刺激になったりもするんだよね」
「それはある!」
ちいかが大きく頷く。「特に今回は、みんなが“次のステージ”に向かおうって気持ちが伝わってきた感じがした」
「ね、まだまだここからだし、もっと成長していきたいなって思うよ」
すばるが頷き同意する。その言葉には、確かな成長への意志を感じる
「でもさ、実際にライブを続けてきたこの数ヶ月、どうだった?」
ちいかがすばるに問いかける。
「うーん……率直に言えば、大変だったね」
すばるは少し考え込む。
「でも、それ以上に、支えてくれた人がたくさんいたのが大きかったかな」
『その言葉を待ってた…』『ファンもメンバーも一緒に作ってるんだなぁ』『本当にありがとう!』
「私たちだけじゃなくて、ファンのみんなも一緒に作ってるんだなって感じたよね」
「そうそう! ライブ中のリアクションとか、配信のコメントとか……みんなの存在があるからこそ、ここまで来られたって思う」
『最高のアイドル!』『これからも全力で応援する!』『みんなと一緒に進んでいこう!』
「だからね、ここからさらに盛り上げていくつもりだから!」
ちいかが拳を掲げる。「みんな、これからもよろしくね!」
『よっしゃあ!!』『これからが本番!』『未来はここからだ!!』
ちいかとすばるは、画面の向こうの熱をしっかりと受け止めるように、静かに頷いた。
「やっぱり、もう一つ話しておきたいことがあるよね」
ちいかが画面を見渡しながら、ゆったりと話題を転換する。
『ん?』『なになに?』『そろそろあの話題か…?』
すばるが少しだけ息を整え、視線をカメラに向ける。
「……うん。まりあのことね」
『帰ってきてくれて良かった!』『フルメンバーはやっぱ違った、良かった…』『復活おめでとう…!』
ちいかが頷く。「……やっぱり、まりあが戻ってきたっていうのが、当たり前だけど一番大きいよね」
「そうだね」
すばるが静かに言葉を継ぐ。「まりあちゃんの不在の間、私たちだけで活動を続けてきたけど……正直、不安はあったよ」
『そりゃそうだよな…』『正直どうなるか心配だった』『でも、みんなよく頑張ったよ』
「でもさ」
ちいかが少し笑う。「ファンのみんながいたから、ここまで続けてこられたんだよね」
『泣く…』『支えてたのはこっちだけじゃないぞ』『みんなで乗り越えたよな』
すばるがゆっくりと頷く。「うん。配信とか、ミニライブとか……本当に支えてもらったよ」
「でも、これでようやく、また一つ前に進めるね!」
ちいかが明るく言う。「ここからが、本当のスタートって感じ!」
『これからまた盛り上がるぞ!』『未来しか見えない!』『最高の流れだ!』
「うん! これからも、もっともっといいライブを届けたいよね!」
すばるが力強く言うと、視聴者からのコメントが一気に増えた。
『応援し続けるぞ!』『これからもついていく!』『インターネット娘、最高!!』
ちいかとすばるは、互いに視線を交わし、そして、静かに頷いた。
「それでさ、次の活動予定なんだけど」
ちいかが画面を見つめながら話を続ける。
「この後のスケジュール、結構詰まってるよね」
『お、気になる!』『何か発表ある?』『ワクワクしてきた!』
「まずは、新曲『エゴサ』のパフォーマンス、そろそろお披露目だよね」
「うん。フルライブでやるのは次回からかな?」
すばるが指でカレンダーをスクロールする。「ちょうど、新しいセットリストも組み直す時期だしね」
『おお、どんな振りなんだろ!?』『セトリ変更くる!?』『楽しみすぎる!』
「それと、またスクショ会やりたいって声も多いんだよね」
『ぜひやってほしい!!』『前回行けなかったからリベンジしたい!』『スクショ会待ってる!!』
「運営とも話してるんだけど、次はもうちょっとバリエーション増やそうかって案が出てるんだ」
「スクショ会のバリエーション?」
すばるが興味深げに聞き返す。
「うん、例えば“コスチュームチェンジ”とかね!」
ちいかがニヤリと笑う。「クリスマスの時の衣装みたいに、限定のコスチュームで撮影できるとか!」
『それはアツい!!』『浴衣とかあり!?』『寒いよねwあ、VRなら平気か』
「こういうの、みんなの意見も聞きながら決めたいな」
『アンケートやって!』『コスチュームリクエストしたい!』『運営さん、お願いします!!』
「いいね、みんなで決められたら楽しそう!」
すばるが画面を見ながら頷く。
「あとね、もうひとつ企画を考えてるんだけど……」
『なになに!?』『新しい試み!?』『気になる!!』
ちいかが笑いながら続ける。「ファンのみんなから『こんなライブをやってほしい』ってアイデアを募るのはどうかな?」
「おお、それ面白そう!」
すばるが驚いたように目を輝かせる。
『参加型ライブ!?』『神企画かよ!!』『絶対応募する!!』
「うん、例えば『VRライブでこんな演出をしてほしい』とか、『この曲をこういう形で見たい!』みたいなリクエストを集めるの」
「確かに、それならファンのみんなと一緒にライブを作っていけるよね」
『公式、頼む!』『めっちゃ参加したい!』『夢が広がるな~』
「こうやって、これからもどんどん新しいことをやっていきたいんだよね」
ちいかが画面を見つめながら、楽しそうに話す。
「うん、まりあが戻ってきて、またみんな揃ったわけだし」
すばるが力強く言葉を重ねる。「ここから、さらにインターネット娘を盛り上げていこう!」
『ついていくぞ!!』『絶対最高の未来が待ってる!!』『楽しみにしてる!』
ちいかとすばるは、改めて視線を交わし、そして、静かに頷いた。
──まだまだ、ここから。
この先に待っているものを信じて、配信は続いていく。
⸻
「それじゃあ、今日はこのへんで!」
「みんな、観てくれてありがとう!」
「また次の配信でね!」
『おつかれー!』『最高の配信だった!』『また来週!!』
──と、そこでちいかがふと気づいたように声を上げた。
「あっ、そういえば……これ、今月最後の配信じゃない?」
すばるが瞬きをして、少し考え込む。
「……あ、本当だね」
『え、そうなの!?』『えー、もうそんな時期か』『早すぎる!!』
「なんか、あっという間だったね」
ちいかがしみじみと呟く。
「うん。でも、ここからが本番って感じがするよ」
すばるは、画面の向こうのコメントを見つめながら、穏やかに微笑んだ。
『こっちこそありがとう!』『来月もよろしく!』『これからが楽しみ!』
「みんな、本当にありがとう! 来月も、たくさん楽しもうね!」
「それじゃあ、また次回!」
二人が画面に向かって手を振ると、コメント欄には感謝の言葉があふれていた。
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