第7話

おっと、部屋の掃除を忘れるとこだった。

「繭ちゃん、上の部屋を掃除してくれる?」

私は隣の部屋に行き、一所懸命に絵を描いていた女に声をかけた。彼女は顔を上げ、にっこり微笑んだ。

「はい、判りました。本田さん」

ああ…いつ見ても可愛いわぁ…。

この黒髪の美少女が、繭ちゃん。美少女と言ったって、実際の年齢は判んないけど。

…ここだけの話、繭ちゃんには複雑な事情がある。これは編集長とみっちゃんと私しか知らないことだけど、実は彼女は記憶喪失者で、本名も住所も全く判らないの。

繭ちゃんが入社した経緯は、先代のイラスト担当が締め切り直前に急に辞めたため、編集長が道端で絵を描いていた繭ちゃんを半ば拉致同然に連れてきてしまったからなの。もちろん、まさか記憶喪失者だなんて知らなかったんだけどね。それで、今は編集長と一緒に暮らしてるわけ。

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