第12話 初日

 ――――

 部屋に差し込む朝日にゆっくりと揺り起こされ、目を開けると、見知らぬ天井……じゃなくて、ああ、自室の天井だ。


「……う、あ゙ぁーー!」


 うめきながらも大きく伸びをしてカーテンを開ける。


 窓を開けるとすこしひんやりと湿った空気が身体に残る眠気を覚ます。


 時計を見ると6時前。寝巻きから動きやすい部屋着に着替える。


 水を飲むために食堂に降りるとエリザさんが朝食の支度をしていた。


「あら。早起きだねぇ。おはよう」


「おはようございます。エリザさん。水もらいますね」


 水を飲み干して、外に出る。入り口のそばにある泥落としなどで使う洗い場で顔をバシャバシャ洗う。


「っし!」


 木剣をもち、寮の裏へ回る。


 少し開けた場所で、できる日はやると決めた日課を始める。


 木剣を中段構えて、振りかぶり、真っ直ぐに振り下ろす。


 振り下ろすのと同時に歩を一つ前に送る。


 もう一度振りかぶり、真っ直ぐに振り下ろす。今度は歩を一つ後ろに送る。


 一振りを確かめるように、構えを変えて、振り方も変える。


 どんなとき、どんな状況でも、身体をどう動かしたら、目標を捉えられるのか、その感覚が狂って無いかを確かめる。


 素振りが二百を超えるあたりで、エリザさんが寮から来る。


「ここにいたのかい。もうすぐ七時になるよ。シャワー浴びたり着替えたりしたらいい時間になるだろうし、そろそろ戻りな」


「はーい」



 シャワーを浴びて、支度を終えて食堂に下りる。すでにパウルがいた。


「お、パウルじゃねーの、おはよ」


「レオンか。いないものだからてっきり君は朝を抜くタイプなのかと思ったぞ」


「俺だって貴族様は朝と昼の間に飯食っておやつ食って晩飯食うような食生活だと思ってたぜ」


 朝食はパンとコーンスープ、ボイルドウインナーにサラダ。


 ガッツリ食いたい人は昨日のカレーの残りをパンに挟んで食べなと勧められたので、カレーの具材の色んな食感にウインナーを加えて、口の中が楽しい。


「ふー。ご馳走様ちそうさま。エリザさん、行ってきまーす。っし、パウル、行こうぜ」


「ああ、向かうとするか」



 ――――

 第一講堂。大講堂の次に大きな講堂で、学年の生徒全員がまるまる収まる。


 昨日一日でまばらながら友人ができた人たちは隣同士に座り、進級生は今までの友人同士、編入生も顔見知り同士は話相手を探して隣に座り、そのどれにも当たらないような人はそれとなく空いた場所に座る。


 昨日の夕飯の話、これからの授業の話、どこそこの流派の誰それがかわいかった、かっこよかった話など色々な話で盛り上がる中、講堂の教壇きょうだんに一人の女性が上がり、喧騒けんそう徐々じょじょにしぼんでいく。


「皆さん、おはようございます。私はこの学院で皆さんの学生生活の補助をしております、ヘルタと申します。本日は、今年度の大まかな流れと進級に必要な条件について説明します。それでは…………」


 ヘルタさんの話を聞いて若干パンクしかけていた俺を見兼ねて、パウルが要約してくれた話によると、



一、進級試験を合格すれば、次の学年に進級できる

二、編入生においては、進級試験の項目に実技試験を追加する。進級生においても、追加試験の受験を希望し、合格した場合には、編入生相当として成績を登録する。

三、実技試験の内容は文武を問わず、進級に足る実力を証明できれば、それをもって合格とする(過去には刻印の技術理論を発展させた功績をあげた者がいる)。



「……と、進級については以上になります。そして、この学院では大別して、戦闘術、魔力理論、工学、錬金術、医学、歴史学、算術、音楽、美術、舞踊と多岐に渡り学ぶことができます。自らの能力を伸ばすために必要な授業を選んで、学院を利用してください。」



 生徒全員に講座予定表と講座一覧が渡される。


 俺にとって必須なのは、魔力についての知識だ。戦士として成長するためには、刻印を理解しないと。その刻印を理解するために魔力を理解する。


 それで、何が勉強できるんだ……?


 そう思いながら講座一覧に並ぶ授業の数々。


 基礎魔力理論、基礎刻印操術、基本魔力理論、基本刻印操術、刻印学総論。ここら辺は受講しとくべきだよな。


 ……にしても、他にも色んな授業があるんだな。考古学に、調理学、魔法医学……。


 ま、とりあえず俺に必要なところから、だな。

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