第21話 新生活の幕開け②


 体育館へ向かう道すがら俺は芽依に話題を振る。


「何か気になる部活でもあるのか?」

「ううん。特に浮かばないかな。守月君は?」

「俺も同じ感じ」

「そっか……。そうだよね。とりあえず部活紹介聞いてみて決めよっか!」


 俺達は並んで歩きながら、体育館を目指す。まさか、同じ学び舎でこうして芽依と並んで歩く日が来るとは……。人生何が起こるかわからないな……。


 体育館に到着すると既にたくさんの新入生たちが座っていた。俺達も空いている席を見つけて腰掛ける。しばらくすると、部活動の紹介が始まった。どの部の先輩たちも自分の部をアピールするために必死に練習したであろうことを伺わせるような素晴らしい演技やパフォーマンスを披露していく。


 そして、最後の部活となった。


「最後は軽音部です。それでは皆さんお待ちかねの……、我らがアイドルを紹介しましょう! どうぞっ!!!」


 司会の男子生徒はそう叫ぶとドラムスティックを上に掲げた。その瞬間、ステージ上の照明が全て消え暗転する。そして、スポットライトが一点に集中し、そこに一人の女子生徒が現れた。


「みなさん、こんにちは~! 宮城彩香みやぎあやかです! よろしくお願いします!!」


 彼女を取り囲むように四人のバンドメンバーが集う。全員女子生徒でギター、ベース、ドラム、キーボードとバランスの良い編成になっている。


 演奏が始まると、先程までの明るい雰囲気とは違いロックテイストの音楽が流れる。音楽に合わせてボーカルである彼女が力強く歌い上げる。


(高校生にしては歌上手いな……)


 俺は思わず聞き入ってしまう。


「はい! ありがとうございました!」


 曲が終わると同時に拍手喝采が湧き上がる。俺も自然と手を叩いていた。


「以上、軽音部でした。一緒にバンドやりませんか?」


 その光景を見て、俺は思った。これが青春というものなのだろうと……。学生時代に一度でいいからこんな輝かしい時間を過ごしてみたいものだ。


(まぁ、音楽の才能なんて今も昔もないんだが……)


 一通りの部活紹介が終わり、体育館から人が少しずつ減っていく。


「ねぇ、守月君はどこの部活に入るか決めた?」

「うーん、正直まだ決まってないな」

「私も決まってない。紹介されてもピンとくるような部活はなかったかな……」


 そう言って彼女は苦笑いを浮かべる。そして、亜麻色の髪を弄りながら困った表情を浮かべる。懐かしい癖を見た気がする。


 何か迷ってることがあるときによくそれをしていたな……。こういう時は何かやりたいことがあるんだけど、内心迷ってることが大半だった。


「もしかして、何かやりたいことでもあるのか?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、芽依は驚いた表情を浮かべる。


「ど、どうしてわかったの!?」

「なんとなくだよ……」

「実はさ……、私ゲームが好きだからそういう部活作りたいなって思ってるんだ」


 芽依は恥ずかしそうに話す。ゲームを部活動にするなんて今までの人生で考えたこともなかった。なるほど、今の時代ならではの発想だと素直に思った。


「それって、野球部みたいに部活として大会に参加するってことか?」

「うん……。昔ね、私の憧れの人がゲームで世界大会目指してて志半ばで事故で亡くなっちゃってさ……。あの人は最後までずっと頑張っていたから……。私もそんな風に誰かに夢を与えられるような存在になりたいんだ……。だから、ゲームの大会に出て将来的にはそのメンバーでプロチームを作りたくてさ」


 彼女の話を聞き、俺は涙が溢れてきそうだったが……、なんとか堪えた。泣いたらバレる。その当事者がここにいるということを……。


「そ、そうなると、まずは部活作るには顧問が必要になってくるけどあてはあるのか?」

「うん、ママじゃなくて…、美和先生に言えばきっと協力してくれると思う」


 美和先生か……。うーん、協力してくれるのかな。


 俺が美和先生の立場だったら絶対に断る。そもそも、部活動として『ゲーム』なんてどうなのかとか言われそうだしな……。


 そういうところは堅物なイメージが俺の中では強いのだが……。


「分かった。そういうことなら俺も協力するよ。でも、まずは美和先生に相談するとこからだな……」

「えっ? 守月君も手伝ってくれるの!? 本当に!?」


 俺は首を縦に振った。ていうか……、あんな話聞かされたら協力するしかない。芽依のあんな話を聞いて手伝わないなんていう選択肢はないだろう……。


「じゃあ、早速、職員室行こっか!」


 芽依はそう言うと俺の手を引いて走り出した。まさか、いきなり手を引っ張られるとは思ってなかったのでバランスを崩しかけるが……、すぐに立て直す。


「ちょっ、待ってくれ……」


 腕を引っ張りながらグイグイ歩いていく姿は、病院で無邪気さを見せていた可憐な少女の頃と何ひとる変わっていない。


 色々と時代の変化で変わってしまった世界の中で、ただ一人彼女が変わらぬ姿を見せてくれることに俺はどこか心地の良さを感じていた。

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