♠ 現代転生(中学生編)
第09話 死地の狭間で転生①
目が醒めると、白い天井が視界に映った。
記憶が蘇るように脳裏に映像が蘇ってくる。俺はトラックに撥ねられて、自らが死に陥るという感覚を初めて味わった。体が冷たくなっていき、意識が遠のいていく……。
嫌な感覚だった。
(俺はあの時に死んだはず……)
だが、視界には見知らぬ天井が映っている。
(ここはどこなんだ……、俺は生きてるのか?)
起き上がろうとするが、体が動かない。目だけ動かして、自分の様子を確認しようとした。すると、白衣を着た看護婦が目に飛び込んできた。
「もしかして、目が覚めましたか?」
看護婦は柳町俊吾に優しく話しかけた。その態度はついさっき病院に運び込まれた患者に対するものではなかった。何日経ってるんだろう。
視線を右に動かすと窓から見える山脈と、遠くにうっすらと海が見えた。
都会の光景とは思えない景色にいよいよ俺がどこに運ばれたのか、いまどこにいるのかも全くもって分からなくなった。
「意識も戻ったようですし、大丈夫そうですね」
訳がわからないまま、看護婦は医師を呼びに部屋を出ていった。
「先生、患者さんが目を覚ましました!」
俺は事態の把握をすることにした。
まず、自分の状態を確認する。体を起こすことはできない。これは筋力的問題なのか……、あるいは怪我を負って動けないのか……、現時点では判別することができない。
看護婦の声が聞こえて数秒後に、医師らしき男が部屋に入ってきた。
部屋に入ってきた医師の姿を見ても誰だか分からない。そもそも、自分自身がいまどういう状況に陥っているのか分からないので、俺は酷く動揺していた。
「あぁ、よかった……。目を覚ましましたか……」
医師はベッドの横にある椅子に座り、優しい笑顔で俺に声をかけた。正確に言えば、この体の人物に声をかけたというのが正しい表現だろう。
柳町俊吾は間違いなく死んだ。記憶の中で蘇るそれは決して妄想などではなく、本物の現実である。体を起こそうとすると、看護師が手伝ってくれる。
視界に初めて収めた自分の体を見て、俺は別人になったとすぐに分かった。華奢な体は元の肉体よりも細く、肌は白い。病室の鏡に映る自分の容姿は若い学生くらいに見えた。
ぼさぼさな髪は黒く、顔立ちは悪くないと思った。
(誰なんだよ……、コイツは)
まず、俺は状況を把握するために、その場にいる人間に対して質問を投げかけてみる。
「俺は……、どうなったんですか?」
「君は学校の校舎から飛び降りて、意識不明の状態で病院に運び込まれたんだよ」
医師の答えを聞いても全く意味が分からないかった。
学校の校舎から飛び降り??
この時点で、俺は『別人』に転生したのだと悟った。死んだ人間の魂が乗り移るなんて、そんな漫画みたいなことが起こるなんてありえないんだが……。
(だけど、これ夢じゃないっぽいしな)
頬を抓ってみるとちゃんと痛みを感じる。体の持ち主の記憶はぼんやりとしか思い出せない。通学途中に校舎から飛び降りた記憶だけが微かに残っている。
医師の言うように確かに自殺を試みた学生のようだが……。
「君が目を覚ましたことは、ご両親に連絡しておこう。仕事もあるだろうけど……」
医師が部屋を出ていくと、看護婦が話しかけてきた。どうやら、両親はこの病院にはいないようだ。
俺はボロが出ないように、会話を適当に合わせて、看護師が喋っている断片的な情報を繋ぎ合わせて現状の状況を整理する。
どうやら、この体の持ち主は15歳。中学三年生のようだ。この体は小学生の頃から、うつ病を患っていて、病院で精神治療を受けていたようだ。
そして、一番驚いたのは目が覚めたら時は6年も過ぎ去っていて――、今は2019年の11月23日だということである。
病院のベッドで寝ていると体調も回復し、病院内を歩き回れるようになっていた。うつ病患者だったというのだが、別に体も心の状態もなんともない。
「ここ高知県らしいんだよな……」
この体の名前は、
自分だったころの記憶を思い出すように、彼の過去を辿ろうとするが、13歳の少年の記憶はまだまだ曖昧であまり思い出すことができない。
とにかく今は、この体の持ち主として生きていくしかなさそうだ。
(あれ、なんで俺はコイツに擬態する必要があるんだ?)
病院の中庭に出た俺は、そこにあるベンチに座り、ぼっーと空を眺めていた。体は健康そのもので、体力も十分にある。前世でやってきたことは全て憶えている。
記憶は数年前のものですっかり世間は変わっているが、知識や技術の根本は活かせそうではある。中学生レベルの勉強なら余裕だし、体の感覚が戻ってからは運動も難なくできそうだ。
「中学生でスマホか良い時代になったもんだな……」
スマホを取り出して顔を認識すると簡単にロックが解除される。便利なものだ。情報源はネットから辿るのが一番手っ取り早い。このスマホは相当活用させてもらった。
NRTのホームページを見ると、最終更新は俺が死んだ日の翌日に「世界大会出場の辞退と解散について」というタイトルで終わっている。
ということは、アイツらは世界大会に出場することなく、メンバーが欠けて、志半ばで夢を諦めざる終えなかったということか……。
「なんか、申し訳ないことをしちまったな……」
俺は誰にも聞こえないように、小さな声で呟いた。
これほどの歳月が経っているとeスポーツ事業もかなり発展していて、俺の前世の頃になかったような、新しい技術だったり新たなゲームタイトルが出ていた。
「なるほどな……、今はバトロワが流行ってるわけね……」
スマホでプレイ動画を見ても具体的なイメージが湧かなかった。やってみないとゲームのイメージが湧かないなと思いながら空を見上げる。
もし、俺がこのまま日常生活に戻ることを考慮するなら、この「空白の記憶」をなるべくボロが出ないレベルまで補完する必要があるだろうな……。
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