第07話 壊れてしまった夢②
病院に着いた時には柳町の両親が既に到着しており、医者からの説明を受けていた。
即死だったそうだ……。
牧野は柳町の両親と医者の会話を静かに聞いていた。まるで、誰かに心臓をギュッと摘ままれたような感覚を味わいながらも……、牧野は必死に冷静を保っていた。
「嘘……、だろ?」
だが、必死に鎮めようとしている心に抗うように心の声がわずかに漏れる。
柳町の母親は病院の椅子に力なく座り、それを父親が宥める様に背中をさすっていた。牧野はやるせない思いを心に残しながら、そんな二人をただ見つめることしかできなかった。
その後、警察が来て現場検証が行われた。
人通りの多い交差点ということで目撃者が多く、事故の状況はすぐに判明した。
急いでいたのか信号無視をしたトラックが曲がってくる車に慌ててブレーキを踏んでそのまま制御しきれずにスリップ――、横断歩道を渡っている柳町に突撃したらしい。
NRTは世界大会を控えているため、大会運営側は出場メンバーに対して、今回の件に関して口外しないように厳命を下した。大事にはしたくないのだろう。
だから、牧野は関係者に事情を聞かれても何も言わなかった。
というより……、言えなかった。
チームとして予備選手を大会に出すことも検討したが、次は世界大会ということもあり……、今からのメンバー補充は厳しいという判断になった。
柳町だって誰かが欠けることを想定などしていなかった。
(エース不在でまともに戦えるわけもないしな……)
そして、NRTは世界大会出場権を放棄し、辞退することを運営側に伝えた。全てが落ち着いてからその話を後から聞いたチームマネージャーはその決定は妥当だと判断していた。
そして、その日を境に……、NRTは「解散」となった。絶対的なエースである「柳町」を失い、残されたメンバーが立ち直れるわけもなかった。
柳町俊吾という存在はそれだけチームとって大きい存在だったってことだ。
そんな騒動が起き――、長い一夜が明けると牧野は彼の葬式に参列した。
火葬場では、柳町の母親が棺桶の前で泣いており、牧野はその光景を見て胸を痛めた。葬儀は柳町の両親の意向で小規模に行われ、親戚や本当に親しかった友人だけでひっそりと執り行われた。
その中には、既に解散発表済みのNRTのメンバーもいたが、メンバー間での会話はない。無理もないだろう。こんな状況下でまともに話ができるわけがない。
それでも、葬儀の端の席で無気力に立ち尽くす俺に凌平が話しかけてくる。
「牧野……、お前顔色めっちゃ悪いぞ。昨日から寝てねぇんじゃねぇだろうな?」
「まあ、こんなことになっちまったからな……」
こんな状況下で冷静にいられる人間がいるとすればそれは常軌を逸している。そんなことを思ってると凌平との間で沈黙の時間が流れ――、
「なあ、お前はこれからどうするんだ?」
「さぁ、わからないな。だけど、このまま終わるつもりはないと思ってる」
「まあ、お前は頭がいいしな」
牧野と鈴木がそんな会話をしていると……、亜麻色の綺麗な髪をした10歳くらいの少女が瞳に涙を溜めながら棺の奥に飾られている柳町の写真をジッと見つめていた。
彼女は母親らしき人物と一緒に手を繋ぎながらその場を後にしようとしていた。
「……ねえ、お兄ちゃんはもう帰ってこないの?」
「うん、残念だけどね……」
「じゃあ、もう会えないの?」
「ううん、いつかまた必ず会えるよ」
少女はとても悲しそうな表情を浮かべながらそんな会話をしていた。牧野はそんな彼女の後ろ姿をジッと見つめていた。そんな姿を見た鈴木が、
「なぁ、牧野……、お前はゲーム続けろよな?」
「ああ、わかってるさ。でも、凌平はどうするつもりなんだ?」
凌平は何も言わなかった。NRTはチーム発足時に柳町がそこら中からスカウトして集めたメンバーだった。だから、趣味も、年齢も、性格も、女のタイプもバラバラで、普段はまとまりのない集団である。
全員変わり者の集まりではあったが……、非常に負けず嫌いな良いチームだった。屈指の負けず嫌いが集まったからこそ、ここまで結果を出し続けられたんだよな。
それを集めて、一つのチームにまとめたのが「柳町」だった。
柳町俊吾という男はeスポーツの競技プレイヤーとして、戦闘時のフィジカル能力は海外のプレイヤーからも認められているほどの実力者だった。
国内の競技プレイヤーからすれば、カリスマ的な存在だ。そんな男を亡くしてしまったこれからのeスポーツの業界が心配でしょうがない……。
「ゲームを続けろか……」
凌平が牧野に放った言葉が脳裏に浮かんでくる。
柳町俊吾は「ゲームは撃ち合うだけが才能じゃない」と言って、牧野をNRTに誘ってきた。去年はIGLに拘ったのは牧野が信用できなかったからじゃない、俺との差を確かめたかったから……。
そして、今年に入って柳町は「俺にはお前のようにゲームを組み立てるセンスがない。だから、今年はお前がゲーム全体を支配してくれ」そう言って幕を開けた大会だった。
だが、答え合わせをする前に幕を閉じてしまった。
「やめるわけねぇだろ……、あんな壮大な夢をみせておいて」
牧野は心の中で誓った。柳町がいなくなったからって……、ゲームをやめたらアイツが本当に浮かばれないだろう。こんなところで終わってたまるかよ。
牧野は拳を強く握りしめながら、柳町の写真を見ながら拳を前に突き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます