第3話

結局、あたしは浩人の家に再び入った。

でも、言わなきゃいけない。

浩人が平気だとしても、第三者のあたしがカップルの邪魔をするのはお互い気まずい。

それに、今のあたしが彼女さんに会ったらどこかで嫉妬する気がしてた。


「ねえ、浩人。やっぱりあたし、帰るね」

「え?急にどーしたんだよ?」

「あたしがいたら、お互い気まずいし……」


浩人は訳がわからない、というようなマヌケな表情を浮かべている。


こーゆー鈍感で少しKYなところも、あたしにとっては浩人の好きなところの一つだった。

でも、この状況ではそんなこと思ってるわけにはいかない。


「だから!彼女さん、あたしがいたら気まずいんじゃないの?」

「え??彼女???」


浩人はますます、訳がわからないというような表情を浮かべる。



あれ?もしかしてあたし、超恥ずかしい勘違いしてる……?ただの女友達説……。



「彼女ってさ、もしかしてコイツのこと?」


浩人は例の黒髪メイド服のコを指差す。

頷くあたしに対して、浩人は爆笑しながらそのコに言う。


「優お前さwww、俺の彼女だってwww」

「はあ!?誰がお前の彼女になるか!」


でもフツーの女友達にメイド服なんて着せるかな……、という新たな疑問が生まれる。

いや、もしかしたら本人の趣味かもしれない。

ゴスロリ系のバンギャのコかもしれないし。


「優ちゃん、だよね?その服かわいいね!どこで買ったの?」

「いや、これは……、別に好みじゃないし。コイツに無理矢理着せられただけだから」


女のコにしては低くてかっこいい声。

無駄に声が高いあたしとは真逆で憧れる。



優ちゃんはスカートの裾を引っ張りながら恥ずかしそうに少し頬を染めている。

浩人にそんな趣味があったなんて、と軽く幻滅する。

もちろんそれだけで冷めはしないけど。


「えーっ!?無理矢理!??てか浩人なんでメイド服なんて持ってんの!?変態!」


あたしは浩人を睨む。


「いや、姉がサイズミスったからって俺に押し付けてきてさ。で、罰ゲームやって優が負けたから着せたってわけ」


浩人がいつもの爽やかな笑顔でとんでもない事を言う。

その直後に優ちゃんの不服そうな声が響く。


「てかこれいつまで着てればいーんだよ」

「俺がいいって言うまで」

「はあ!?ふざけんなドS野郎!!」


ムカついた表情かおをしながら浩人を叩いている。

浩人はそんな優ちゃんのことは完全にアウトオブ眼中で、そのまま話題を変える。



「それより美加、勉強会始めないと時間なくなるよ」

「うっ、そーじゃん……」


急にリアルに引き戻された気分になってテンションが下がる。


バッグから、浩人からもらったお気に入りのシャーペンと、持ってきたテストの問題と答案用紙を出して解き直しを始める。



やばい。一問目からわかんない。



「そこは二項定理に当てはめればいける。応用加えてあるけど基本問題と一緒だから」

「え!すごい解けた!!優ちゃん超天才!」

「単純かよ」

「あたしの脳と交換してよ」

「はあ?やだよwww」


 

電話の着信音が鳴る。

お母さんから早く帰ってこいと怒られた。


「やば!!早く帰んないと今日は2人とも超ありがと!」


そう言ってあたしは浩人の家を出ていく。




あたしの部屋で、明日の荷物の整理をする。


「あれ?無い!?」


シャーペンが見つからない。

浩人からもらった大事なものなのに。


浩人にバレないようにしないと。

くれた本人が知ったら、軽く悲しむかもしれない。


結局でてこないのに探し続けてもしょうがないから、肌のためにも早く寝よう。

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